竜と人、人と人、竜と竜――竜あらざる竜の副官たる青年を巡る関係の物語


竜により人の国が滅ぼされ、世は竜に支配されていた。圧倒的な強さを持つ竜に、しかし人は叛旗を翻す。この物語の主人公夏山星舟は、竜へ叛旗を翻した人の宰相――ではない。彼は人でありながら、竜あらざる竜軍の将だった。
竜軍の異端の将。もちろん有能であるから登用されたわけだが、誇り高い(言い換えれば傲慢な)竜の侮蔑の受皿であり、同時に嫉妬の矢の的である。彼はくやしさをばねにして邁進し、一部の竜とは真の友誼を結び、汗と涙と感情を迸らせ一丸となって戦うだろうか。否。
夏山星舟は冷笑的(シニカル)であり、純粋な青年である。歪つでありながら、真っ直ぐ。リアリストでありながら夢を見る。一見相反するこれらの性質には、実は矛盾がない。一体どういうことなのか――ぜひ本文を読まれたしと思う。
そして深謀遠慮張り巡らされた戦記物としてもちろん面白いのだけれど、個人的に着目するのが星舟を巡る関係性の物語だ。彼を拾った竜の姫君、その父である東方領主、次期当主たる兄、竜の猛将、寄せ集め隊の部下、挫折を知る怜悧な副官、人の国の女王、女王に才気を認められた音楽家。アクの強い人(竜)物ばかりだが、その関係性も一筋縄ではいかない。尊敬や信頼などは通り越し、複雑な想いに彩られ、絡みつかれながら物語は進む。ぜひ、見届けたい。

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