本作は「傑作」だ。読むかどうかを迷っているなら、その時間がもったいない。最初のページをクリックしてしまおう。
謎めいたプロローグを頭の片隅に入れつつ、まずは第一話だ。
文明が崩壊し、奇病が蔓延する世界。ただ一つの希望「星の雫」を追い求め、男は荒廃した星を往く。巨大な棺桶を背負い、傍らには無表情な少女を従えて。
さあ、貴方はもう戻れない。
ここに描かれているのは、度外れたスケールの滅びと再生、世界の終わりと始まり、身を焦がす深く切ない愛だ。
彼らの苛烈な戦い、入り混じる愛憎、そして過酷な旅路の果てを見届けるまで、読む手を止められなくなる。
散りばめられた全てのピースがはまる時、貴方は頭の奥が痺れるような感動に震えることだろう。
ところで作品を評価する上では「キャラクター、ストーリー、文章力」が定番の要素と言われる。
・キャラクター
これはもう言う事がない。執念と愛とで身を焼き尽くさんばかりの主人公ゲオルグ、自我が希薄でありながら奥深い想いを垣間見せるツェオ、頼れるトラブルメーカーのヘレネー。無個性がかえって不気味な敵。幕間や外伝で登場する居住区画のしたたかな住民たちも、息遣いが聞こえてきそうな生き生きとした描写が魅力だ。
・ストーリー
滅びゆく世界で戦い続け、あるかなきかも分からない希望を探す旅。これだけでもロマンあふれる舞台仕掛けだが、テンポよく提示されては深まる謎、せめてもの安寧が崩壊し怒涛の展開へとなだれ込む構成は見事だ。最後はもう激流に飲み込まれるような気分で読み進められる。
・文章力
この作者の文体はなかなかに特徴的で、「軽くてすらすらと読める」文体とは少し違うが、好みに合う人にはたまらない魅力がある。
重厚かつキレのある文章は、簡単に言えば「カッコイイ」。描写はシンプルだが明快。見たこともない世界でありながら、状況を容易に把握できる。時おり使われる古語表現も、作者の文体に独特の雰囲気と味を加えている。また、深い葛藤を思わせる沈黙の後にずしりと重く、キレのある台詞を決める表現コンボの破壊力も絶大だ。
特徴的なルビ使いも魅力の一つだろう。電磁投射式弾体加速装置《レールカノン》、絢爛舞踏《モータル・バレエ》なんて見せられた日には、脳がうずいてたまらない読者も少なくあるまい。このセンスだけでも見事だが、よく読むと一部の語句は物語の序盤と終盤でルビが異なる。これらは物語の展開に沿った必然的な変化で、それぞれに意味がある(作者にも確認済みである)。個人的には「星の雫」の読み方がどう変わり、最後にどんな意味を持つようになるか、追ってみることをお勧めしたい。
また、隠された設定やオマージュを見つけるたびに、新鮮な驚きを味わえるのも本作の魅力だろう。
まずは緻密な設定と、それを支える作者の膨大な知識量。本作のカギとなる奇病「慧可珪素置換症《アリストテレス・シンドローム》」や、人類の生存圏を規定する「神樹木《エメト》」などはいずれも奇抜な存在だが、その背景にはしっかりした科学的考証が垣間見える。
さらに本作はSF面とは別に、古典的名作のオマージュが驚くほど大量に詰め込まれている。その範囲は文学、戯曲、オカルト、民話など実に幅広い。私が気づいた範囲だけでも、解説すれば数ページの論文が書けるだろう。これらを知っているとニヤリとできる一方で、作者の豊富な知識に圧倒されることだろう。手始めに戯曲「ジゼル」を調べてみてはいかがだろうか。ゲオルグが目に宿す執念の光が「鬼火」でなければならない理由、彼が「死ぬまで踊る」ことになる理由、さらには「愛しい人」に振られた数種のルビの意味など、様々なメタファーに気づくはずだ。
いったいどれだけのインプット量と、ネタの複合能力があれば本作を生み出せるのか。また、これほどの作品を一気に書き上げる執筆速度も考えると、作者は創造的化け物だと言わざるを得ない。
なお、本作は同作者の「錬金詐欺師と最後の魔女 ~その賢者の石、燃えます~」と併せて読むことをお勧めしたい。内容的には全くつながりのない二つの作品だが、見方によっては「陰」と「陽」の関係にあると気づくだろう。読者の一人として、貴方にもぜひ対比を楽しんでほしい。
さあ、さあ。迷うことはない。早くプロローグをクリックしたまえ。11万2千字の長さを感じさせない、あっという間の濃厚な旅が貴方を待っているのだから。
文明や倫理や活動体が大きく異なる島を渡り歩く、謎ばかりの男と少女。
二人は壊れかけの世界のなか、何を求めてどこへ行くのか。
情報処理工学やまだ見ぬ先進医療科学的な描写と、古代からの神話や天界階層をイメージさせる設定が融合していて、硬派な大人の男性向けに執筆されたのが女性の私にもよくわかった。
けれど、熾烈をきわめる戦闘を乗り越えた物語の最深部にあったのは、痛いほど純真な愛情だった。
あなたのために。
おまえでなければ。
かけ離れているお互いを思っての感情のぶつかり合いは激しいのに、どこか夢見がちで女性向けの恋物語の様相を帯びて胸に響いた。
最後まで一気に読みきって、二人がとても愛おしい。しばらくこの余韻にひたりたい。
ご存じですよね? ジョン・ケージ。
いわずと知れた、現代音楽の巨匠です。
代表作『4分33秒』は、そのあいだ
オーケストラの演奏者たちは何もせず、
ひたすら無音が続くという曲です。
本作を読んでいたとき、私のなかに
この曲が聴こえてきたのですよ。
え、ウソだろ、ですって?
ホントです。私には「聴こえた」のです。
さて本作。
すごいです。雪車町地蔵氏は、やりました。
「なんてモノを書きやがったんだコノヤロー!」
とビートたけしの声で叫びたいぐらい。
でも本当は、私は声を失ってしまいました。
そして4分33秒の沈黙の後で、明快に悟ったのです。
余計なレビューなんか、本作には不要だと。
目を見開き、息を呑み、黙りこくって
ひたすらクリックして読み進めるべし。
傑作。
退廃し、何かも失ったこの世界。そんな世界の中でも、『星の雫』なる希望を探そうと旅をする青年と少女の物語。
まず世界観が濃厚! どこまで練られた世界観故に、文章から重厚さが退廃さが感じられる。読めばポストアポカリプス――終末の世界にいるんだなと実感します。
そしてそんな何もかも終わった世界で、ゲオルグとツェオを始め、色々なキャラが生きようとしている。例え間違っているとも言われようがそれでも想いを胸にして生きている。それがまた、この世界の中で輝いている感じがあります……。
果たしてゲオルグとツェオの旅に終わりがあるのか。幸せがあるのか。それは読んでのお楽しみという事で……。
本作に無数に存在する魅力のうち、特に感銘を受けた三点を挙げさせて頂きます。
まず一つ目は、冒頭からこれでもかと見せつけられる、徹底的に練り上げられた世界観。
退廃的かつ、世界構造そのものから変質してしまった世界を、重ね重ね、繰り返し丁寧に描写することで、読者に世界のルールと本作の読み方をしっかりと伝えてることに成功しています。
そして二つ目。物語冒頭で確立された世界観が揺らぎ、変節していく様が、物語中盤では流れるように描写されます。一度完全に確立されたはずの世界観が一気に不安定なものとなることで、物語の続きを読まざるを得ない状況へと読者を追い込みます。
そして三つ目。中盤でバランスを失ったネクロアリスの世界は、終盤において決定的な破局を迎えます。しかし、この破局は全て作者様の緻密な計画性の上に成り立ってのこと。読者は、本作を娯楽として楽しみつつ、物語冒頭で確立された世界の破局と崩壊、そして終わりと再生を、傍観者として味わうことが出来ます。
最後まで読了し、本作の面白さをまとめるとすれば、それはさまに始まりと終わりの物語と言えるでしょう。
第一話を開いた際に産声を上げた物語は、最終話で美しくその命を全うした――。
私には、そう思えてなりません。
この作品の魅力や評価点は多々あるのですが、個人的にはまず作品全体を包む重厚かつ「カッコイイ」雰囲気が挙げられると思います。
独特な台詞回しや地の文を構成する描写といった文字列達が、それぞれこの退廃的なSFの作風に合致しています。
そして細部にまでこだわって練り込まれた設定。オリジナリティに溢れていながら、根拠を以って架空世界の『リアル』に読者達を引き込むパワーを持っていました。
キャラクターの造形や設定、ストーリー展開もどれも高水準であり、特に終盤の壮大な結末は、切なさや穏やかさが同居したまさに神話的な物語だったと思わせてくれました。
単なる舞台背景や装置としてでなく、それぞれの要素がガッチリと深く噛み合って一つの『作品』を組み上げているのが素晴らしいと思いました。
文字数に反してとても内容の『濃い』物語でした。
この作品、Twitter上で多くのファンアート、特にキャラクターに関するものが寄せられています。
短期間でこれだけ寄せられるものも珍しく、不思議に思っていましたが、読んでみて納得です。
描写文が少なめが受ける昨今で、これだけキャラクター描写に力を入れているの作品は久々でした。
しかも、その描写が詩的で美麗。
読んでいると想像を刺激されます。
たぶん、イラストを描けるクリエイティブな心をくすぐったのではないでしょうか。
思わず絵をかきたくなるような魅力的な容姿が脳裏に浮かんだことでしょう。
ファンアートが欲しい人は、参考になる作品かもしれません。
内容をどうこう言えるほどまだ話が進んではいないのですが、文章を読んでいて感じ入ったので、レビューを書かせていただきました。
SFらしさの溢れる重厚かつスケールの大きな世界観。スタイリッシュで雰囲気がありつつも、読者を置いてけぼりにしない読みやすい文章。どんどん謎が明かされていくよく練られたストーリー展開。
主要キャラの個性も豊かで、健気で可愛い無口ヒロインのツゥオちゃん、普段は淡々として見えるけれど、頑固さや時折見せる熱さがカッコイイゲオルグ、ヘレネーも魅力的。どうしても他2人がローテンションになりがちなのでムードメーカーとして話を引っ張ってくれます。
ほのぼのするシーンもあるのですが、それだけに物語には常に儚さや哀しみがつきまとっています。
失いたくない記憶。失った記憶。生き延びて欲しい人。苛烈な戦い、無情なる真実。旅の終着点でそれぞれが見たものは――
哀しくも美しい世界。読み終わった後に心の中にじんわりと一滴、何かが残るような、そんな素敵な作品です。
重厚な文体で綴られる世界観は、読みながらにおいまで漂ってきそうです。
SF特有の荒廃した世界を描写する地力は、読んでいて読者を引き込みます。
しかも、セリフ回しもカッコいいのです。
重厚な文体の合間合間に垣間見えるカッコイイ台詞。
それを追いながらでも、この世界に存在する登場人物達の姿を楽しんで追うことができます。
また、作者様の漢字で書かれた単語訳。
このセンスが光りますね。
弾体加速装置-ハンド・ガン-
強化硝子-アンブレイクグラス-
この辺は私のお気に入りです。
そして、魅力はそんなハードな世界観だけではありません。
ヒロインと言えるツェオちゃん。
彼女の魅力はこの重厚な文章を読み飛ばさず、きちんと読み進めば次から次に出てきます!
彼女のかじり癖や小さい体ということを忘れさせない仕草。
眠たげな瞳――ええ、ええ!好きな人は好きですよね!
無表情、小柄、無敵!
作中ピンチな場面もありますが!
むしろだからこそ彼女はヒロインしてる!
物語にちりばめられた情報を集めながら、この終末の後に浸りましょう!