退廃的でありながら重厚な世界観をともない展開するSF作品。
本作は初っ端から圧倒的情報量で読者の処理能力に挑戦してくる。
けれど……決して読みに難いということはない。
逆に読み解けば読み解くほど、容易には見通せない世界がどこまでも続いてた。
それはまさにあの精緻に描かれた漫画作品、BLAME!を彷彿とさせ、私を荒涼とした世界へ迷い込ませていく……。
そうかと思えば一転、幕間で語られる物語にはどこか優しい雰囲気が漂い始める。
荒廃した世界を旅する主人公達、そのつかの間の休息。
そこでは長く険しい旅を続けた彼らの日常が垣間見える。
人類の生存空間が分断され、交易がといものが満足に行われていない世界。
ゆえに生存空間ごとに変わる人々の文化、それらに関わる主人公一行の姿はどこかキノの旅をような独特の世界観を私に感じさせる。
一度は終わった世界で、けれど必死に生きようとする人々。
そんな世界である目的のために旅を続ける主人公。
星の雫――その希望を求める旅路はどこまでも果てしなく続いていく……。
願うなら、彼らの長い道のりに幸せがあらんことを――。
重厚な文体で綴られる世界観は、読みながらにおいまで漂ってきそうです。
SF特有の荒廃した世界を描写する地力は、読んでいて読者を引き込みます。
しかも、セリフ回しもカッコいいのです。
重厚な文体の合間合間に垣間見えるカッコイイ台詞。
それを追いながらでも、この世界に存在する登場人物達の姿を楽しんで追うことができます。
また、作者様の漢字で書かれた単語訳。
このセンスが光りますね。
弾体加速装置-ハンド・ガン-
強化硝子-アンブレイクグラス-
この辺は私のお気に入りです。
そして、魅力はそんなハードな世界観だけではありません。
ヒロインと言えるツェオちゃん。
彼女の魅力はこの重厚な文章を読み飛ばさず、きちんと読み進めば次から次に出てきます!
彼女のかじり癖や小さい体ということを忘れさせない仕草。
眠たげな瞳――ええ、ええ!好きな人は好きですよね!
無表情、小柄、無敵!
作中ピンチな場面もありますが!
むしろだからこそ彼女はヒロインしてる!
物語にちりばめられた情報を集めながら、この終末の後に浸りましょう!
SFらしさの溢れる重厚かつスケールの大きな世界観。スタイリッシュで雰囲気がありつつも、読者を置いてけぼりにしない読みやすい文章。どんどん謎が明かされていくよく練られたストーリー展開。
主要キャラの個性も豊かで、健気で可愛い無口ヒロインのツゥオちゃん、普段は淡々として見えるけれど、頑固さや時折見せる熱さがカッコイイゲオルグ、ヘレネーも魅力的。どうしても他2人がローテンションになりがちなのでムードメーカーとして話を引っ張ってくれます。
ほのぼのするシーンもあるのですが、それだけに物語には常に儚さや哀しみがつきまとっています。
失いたくない記憶。失った記憶。生き延びて欲しい人。苛烈な戦い、無情なる真実。旅の終着点でそれぞれが見たものは――
哀しくも美しい世界。読み終わった後に心の中にじんわりと一滴、何かが残るような、そんな素敵な作品です。
この作品、Twitter上で多くのファンアート、特にキャラクターに関するものが寄せられています。
短期間でこれだけ寄せられるものも珍しく、不思議に思っていましたが、読んでみて納得です。
描写文が少なめが受ける昨今で、これだけキャラクター描写に力を入れているの作品は久々でした。
しかも、その描写が詩的で美麗。
読んでいると想像を刺激されます。
たぶん、イラストを描けるクリエイティブな心をくすぐったのではないでしょうか。
思わず絵をかきたくなるような魅力的な容姿が脳裏に浮かんだことでしょう。
ファンアートが欲しい人は、参考になる作品かもしれません。
内容をどうこう言えるほどまだ話が進んではいないのですが、文章を読んでいて感じ入ったので、レビューを書かせていただきました。
この作品の魅力や評価点は多々あるのですが、個人的にはまず作品全体を包む重厚かつ「カッコイイ」雰囲気が挙げられると思います。
独特な台詞回しや地の文を構成する描写といった文字列達が、それぞれこの退廃的なSFの作風に合致しています。
そして細部にまでこだわって練り込まれた設定。オリジナリティに溢れていながら、根拠を以って架空世界の『リアル』に読者達を引き込むパワーを持っていました。
キャラクターの造形や設定、ストーリー展開もどれも高水準であり、特に終盤の壮大な結末は、切なさや穏やかさが同居したまさに神話的な物語だったと思わせてくれました。
単なる舞台背景や装置としてでなく、それぞれの要素がガッチリと深く噛み合って一つの『作品』を組み上げているのが素晴らしいと思いました。
文字数に反してとても内容の『濃い』物語でした。
本作に無数に存在する魅力のうち、特に感銘を受けた三点を挙げさせて頂きます。
まず一つ目は、冒頭からこれでもかと見せつけられる、徹底的に練り上げられた世界観。
退廃的かつ、世界構造そのものから変質してしまった世界を、重ね重ね、繰り返し丁寧に描写することで、読者に世界のルールと本作の読み方をしっかりと伝えてることに成功しています。
そして二つ目。物語冒頭で確立された世界観が揺らぎ、変節していく様が、物語中盤では流れるように描写されます。一度完全に確立されたはずの世界観が一気に不安定なものとなることで、物語の続きを読まざるを得ない状況へと読者を追い込みます。
そして三つ目。中盤でバランスを失ったネクロアリスの世界は、終盤において決定的な破局を迎えます。しかし、この破局は全て作者様の緻密な計画性の上に成り立ってのこと。読者は、本作を娯楽として楽しみつつ、物語冒頭で確立された世界の破局と崩壊、そして終わりと再生を、傍観者として味わうことが出来ます。
最後まで読了し、本作の面白さをまとめるとすれば、それはさまに始まりと終わりの物語と言えるでしょう。
第一話を開いた際に産声を上げた物語は、最終話で美しくその命を全うした――。
私には、そう思えてなりません。
退廃し、何かも失ったこの世界。そんな世界の中でも、『星の雫』なる希望を探そうと旅をする青年と少女の物語。
まず世界観が濃厚! どこまで練られた世界観故に、文章から重厚さが退廃さが感じられる。読めばポストアポカリプス――終末の世界にいるんだなと実感します。
そしてそんな何もかも終わった世界で、ゲオルグとツェオを始め、色々なキャラが生きようとしている。例え間違っているとも言われようがそれでも想いを胸にして生きている。それがまた、この世界の中で輝いている感じがあります……。
果たしてゲオルグとツェオの旅に終わりがあるのか。幸せがあるのか。それは読んでのお楽しみという事で……。