Peace Keeper

毛糸

episode01

 ──6月30日23:00──


 闇夜の深まる深夜。

 とある報告を受け、ビルの屋上で愛車に跨り冷たい夜風に体を晒していた。


『──こちら監視班トータス対象ターゲットをドローンで発見。DポートからE地区へ移動中──』


 片耳につけていた通信機にノイズが走り、声だけでも貧弱そうだと分かるような若い男の声が聞こえてきた。


『──対象がドローンを視認。速度を上げて逃走を開始。E地区から旧市街方面に逃走中現在位置を追跡班に転送──』


 E地区は簡単に言うと倉庫街だ。そこから人気ひとけのある旧市街へと逃げるつもりなのだろうが、それをさせないのが俺達の仕事の一つだ。


「──"トータス"。対象の侵食度は?──」


 問い掛けからしばらくして、ノイズが走る。


『──侵食度は30%と推定。右腕は完全に鋼化しています──』


 30%はまだ安全域グリーンではあるが、今回は鋼化している場所が悪い。早く対処する必要がある。


「──2人とも聞こえたな? これより対象を危険域イエロー認定マーク、旧市街への進行を阻止、同時に対象の保護を最優先。武装は非殺傷ノンリーサルで固定。実弾は使うなよ──」


『──追跡班シェパード、了解──』

『──追跡班フェアリー、了解──』


 力強い男の返答の後に若い女の声が続く。


「──任務開始だ。追跡班はE地区から出さないように誘導しろ。"トータス"はいつものように追跡班のサポートだ。ついでに俺の狙撃位置を転送してく──」

『──必要ありません。"フェアリー"対象を捕捉、接敵しますエンゲージ──』

「──なっ!? おい、"フェアリー"! 勝手な事はするな……って聞いてるのか!? おい!──」


 トータスへの要請を女の声に遮られた。その上勝手な行動まで始めてしまった。

 彼女は才能もセンスもある優秀な人材だ。だが正義感が強すぎる。その強い正義感が、逆に彼女の視野を狭めてしまっている。


 通信機の向こうの状況は解らない。断片的に物騒な音がノイズと共に耳に届いていたが、いつの間にか静まり返っていた。


『──狙撃班イーグルアイ。こちら"シェパード"──』


 力強さのある男の声が愛称コードネームで俺を呼んだ。その息遣いは荒い。


「──こちら"イーグルアイ"。どうした?──」


 正直聞かなくても内容はなんとなく解る。だがこれを聞いてやるのも俺の務めだ。


『──"フェアリー"が抗生剤アンプルを使用。その結果対象の侵食度が増加し反攻されました。それにより"フェアリー"が負傷。対象は旧市街へと逃走を再会しました。それと──』


 男は少し言いにくそうにタメを作ってから、再び口を開く。


『──紅眼ブラッド・アイを確認しました──』



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る