episode02

 ──7月1日00:15──



 旧市街に軒を連ねる雑居ビルの屋上で、長年連れ添ってきた相棒スナイパーライフルを構える。

 トータスに割り出させた、対象の現在位置および行動予測範囲から算出された最適な狙撃位置だ。


【EMSR-777 スターオーシャンMark.7】


 長い銃身と洗練された機械的フォルムが特徴的な、闇のような漆黒を纏った対斬裂き魔リーパー用電磁誘導式狙撃銃。これが俺の仕事道具相棒だ。


 アイストンエレクトロニクスが誇る名作。誰が言ったのかは知らないが、頭の悪いと言っても過言ではない初期構想から、7度の試作を経て完成したスナイパー仕様の超電磁砲レールガン


 コイツには本当に世話になっている。コイツが世に出ることが無ければ、俺は此処にいなかっただろう。


 もはや身体の一部となっているグリップをゆっくりと握る。


 ──コイツのおかけで幸せを得た──


 銃と一つになるように身体に寄せて構え、スコープを覗く。


 ──命を救い、救われた──


 スコープの先に紅く輝く2つの光が闇の中から現れた。上半身の右半分と、顔右半分を漆黒の鋼に覆われた化け物"斬裂き魔リーパー"。


 侵食度は辛うじて半分以下というところだろうか。しかし頭部への侵食が始まり、瞳が紅くなってしまってはもう助ける手段は一つしか無い。


 スコープから目を離すことなくボルトアクションで実弾を装填する。彼らを助ける唯一の方法は──


 ──息の根を止めること殺すこと──


 頭部まで侵食されると、もう抗生剤アンプルは効果が無い。なのでこうなる前に説得、もしくは無力化してから使用するのが本来の使い方なのだが、今回は彼女の独断のせいで台無しとなってしまった。


 呼吸を整えながら照準を合わせる。半分覆われているが、まだ半分は生身のままだ。斬裂き魔の生身側の額に狙いを定め、引き金トリガーに指を添える。


 超電磁砲とはいえ狙撃銃の大きさまでスケールダウンしたものだ。威力や射程も他のものと比べても差異はない。だが、コイツの持ち味は発射する弾の弾速だ。回避はほぼ不可能。実際避けられたことはない。


 ──避けられない弾を撃つ狙撃銃を作っちゃえばいいんだよ──


 この言葉から開発が進められ、絶対不可避の弾速を生み出すことに成功した奇跡の狙撃銃だが、そのデメリットとして連射ができない。発射時に長い銃身へ膨大な熱が加わり、これを冷却しなければ次弾は撃てない。尤も2発目が必要になったケースはない。


 距離はおおよそ2000mといったところだが、射程内であればそれほど気にはならない。撃てば当たる──


 引き金を引いた直後、弾丸は対象ターゲットの頭部を貫く。その勢いに負け、対象の身体も後方に弾かれる様に倒れていく。


 用心のため、通常動作の銃身冷却とオプションで追加装備してある冷却装置を作動させて次弾の準備をしながらスコープ越しに対象を観察するが、動く気配は無い。


「──こちら狙撃班イーグルアイ。対象の排除に成功、任務終了とする。追跡班は監視班と合流後、そのまま支部へ帰投しろ──」


 3人の返事を確認して、別のチャンネルへと繋げる。


「──管制室、こちら"イーグルアイ"。任務は終了した──」


 任務完了の報告後、しばらくすると通信機にノイズが走る。


『──こちら管制室、了解した"イーグルアイ"。以後の処理は警備課セキュリティに任せて帰投せよ。今回もご苦労だった──』


 労いの言葉を最後に通信は切れる。相変わらずの抑揚ない機械的な返答には慣れたが、アレでは労われた気にならない。


「さてと……帰ったら説教だな」


 相棒を背負い、愛車のエアバイクに跨り動力炉リアクターの出力を上げる。愛車はふわりと宙に浮き、帰る場所へと動き始めた。

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