仁義を切るなぞ遅すぎる。化物共を撃ち殺せ。その感触が、正気を引き戻す

少女の形をした愛おしい化物の手を取って、敵なる醜悪な化物共を相手に、銃弾を派手にぶちまける。
誰が正気ともつかないような、そんな地獄をお望みなら、この作品がオススメです。

主人公の香食禮次郎は、表向きは街の薬剤師、その正体は麻薬を売り捌くヤクザと、裏と表の世界をまたぐ男です。隙あらば他人を食い潰す破落戸の非情さと、一般人と同じように平穏を望む感性が同居しています。

そんな彼が、少女の姿をした怪異と出会った時、凄惨な死を経験し、それからはというもの、次々と名状し難い怪異事件と遭遇します。
それは、正確には、彼の世界に潜んでいた邪悪な存在に気づいただけのことであり……彼がヤクザに身を落としてしまった悪因さえ、その化物の仕業なのだから、なんとも世界は悍ましいものです。

まるで死んで生まれ変わったかのように、豹変した世界は、彼の真っ当な部分を蝕んでいきます。
皮肉な事に、あまりにも多くを失ってきた彼にとっては、この惨劇に引きずりこんだ当の少女が、心の支えとなります。化物に相対するには非力な武力を手に、最後の正気をひた守る彼の勇姿には、胸が滾ることでしょう。

勇敢なる探索者の行く末に、どうか幸あれ。

その他のおすすめレビュー

平山一重さんの他のおすすめレビュー144