青春のほろ苦さを凝縮したような、成長の物語

幼い頃に、つい口にしてしまった言葉で、人を傷つけたことがあります。
今でも、その時のことを思い出すと、頭を抱えて転がりたくなるような気持ちになります。
過去との対峙は、人間の普遍的な闘いであり、誰もが持つほろ苦い経験なのでしょう。
そんな経験を持つ人は、間違いなくこの作品に心を捕まれることでしょう。

この作品の主人公は、本当の意味で読者と同じ目線です。
特殊能力などなく、選ばれた人間でもなく、非日常のために日常を犠牲にするでもなく、それでも何かしたいと願う、普通の少年です。
だからこそ、この作品は誰もが持つ心の弱い部分を、かきむしるかのように抉ってくれます。

この作品に、解放感やカタルシスはありません。想像を越える最悪はなく、ただ予定調和の絶望へと向かっていきます。
それを見続けたいと思うのは、二人の小さな恋を、見届けたいと思うからでしょうか。
しかし、それが全て最悪に向かうのかと言うとそうでもありません。この物語の終着は、肯定でも否定でもない。ただ、成長とは取捨選択であるという、当たり前の事実に気がつくだけなのです。

また、描写力が圧倒的です。基本淡々とした一人称の情景描写で、とても読みやすい。しかし、いざ心情を描写すると、読みやすいのにも関わらず、少年の切なさや悲しさ、無力感をこれでもかと綴ってくれます。


そして、全編を通してまとわりつく恐怖。
すなわち、《忘れたことすら忘れてしまう》縁喰いの恐ろしさ。
おそらく、これから読み始める方は、その本当の恐ろしさを、まだ掴めていないでしょう。
縁が喰われるとは、どういうことか。その恐怖と悲しみを、是非味わってみてください。

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