忠興と珠の関係は、読んでいて胃が痛くなる。他人よりの承認なくば満たされない凡人からすれば、その拒絶にこそ美を見出すかの超人に感嘆し……まぁ、ああはなれないし、なりたくもないよなあ、とも思うのだけれども。
体は許しても、一切忠興に心開くことがかなった珠。乱世で女性の「個」が認められなかったその時代に、あまりにも高く聳え立つ矜持にのみ従い、己を貫き通している。その強さは、しかし、あまりにも悲しい。
息が詰まるほどの誇り、むせ返らんほどの狂気。信長と光秀という、大いなる「安土桃山」を失ったその先の世に取り残された二人は、共に身の置きどころを見失ってしまったようにも映った。
ほとばしる情念。その激しく生きる様には、ある種の憧れを抱く。心に抱いたものに対し、もっと夢中にならねば。そう思った。
先ず、私は歴史に全然詳しくありません。どの位かというとですね…長くなるからやめておきます。
私は歴史に詳しくありませんが、決断は早いのです。
今作の主人公である細川忠興、格好良かったです。
彼の格好良さが分かる人は、きっと高い精神性を有している、と言えるかなと思います。
或いはこの話を読んで精神が育まれて、分かるようになるのかもしれません。
彼の人物としての良さは、彼が持つ信念に裏打ちされたものでありましょう。
真っ直ぐ過ぎるが故に、その往く道と歴史の流れ(戦国の世が終わっていく流れ)との差異で、熱さと狂気を内包しているのですが…
良いですか? 今から私が凄くタメになる事を言いますよ。
本気で狂っているヤツは、自分が一番真っ当だと思っているものなのです!(バーン!)
この細川忠興は正にそれ!
だからずっと格好良い!
歴史を感じるという意味では、熱い精神を持った男達の歴史のほんの一幕でも、この小説で感じてみてほしいですね。
ほんの一幕でも、もう火傷する程の熱さですから。信念の熱量を、感じてください!
その数奇な運命と生き様、そして、辞世の句で世に知られる細川玉(ガラシャ)と、その夫、忠興が繰り広げる愛憎相半ばのものがたりです。
戦国時代という時代においても、その苛烈な性情で知られるふたり。
ふたりの関係は、本能寺の変によって大きく変わります。
主君である織田信長を殺めた明智光秀の娘である玉、そして、織田信長の家臣であるとともに、主に深く敬愛の念を抱いていた忠興。
そのふたりがぶつかり合い、導き出した本能寺の変の真実とは。
歴史上のエピソードや人物像のツボを押さえ、独自の解釈であらたな物語を産み出す語り口に惚れ惚れします。
そして、あえてキメ台詞でもある玉の辞世の句言ってくれないさじ加減。物語内の玉と重なり、絶妙なもどかしさを醸し出します。いじわるめ。
だから声を大にして言います。歴史好きの皆さん!ここに皆が大好きなガラシャと忠興がおるぞ!期待通りにやべー奴だぞ!ハナハナでヒトヒトぞ!
歴史物好きな方は無論のこと、そうでないかたも是非ご一読を。
僕はヤンデレ史に詳しくないのですが、体感的な印象としては世間でヤンデレ属性が注目され出したのは『School Days』の桂言葉からです。そこに『ひぐらしのなく頃に』の園崎詩音や『未来日記』の我妻由乃が続いて地位を築いて行ったイメージ。
それでこのヤンデレ共がなんかやたら日本刀を使うんですよ。桂言葉は言うまでもないし、我妻由乃も使ってたはず。ヤンデレの定義に「日本刀を使う」は別にありません。ただ「こいつにこれ持たせちゃアカン」という非日常の殺人道具を敢えて持たせることで、触れがたい狂気をビンビンに演出しているわけです。
では日本刀が「日常」だった時代のヤンデレはどうだったのか。
そこで登場するは戦国時代を代表する男ヤンデレ、細川忠興。某所では戦国DQN四天王と言われるぐらい有名な武将なので知っている人は知っていると思いますが、彼はとにかく妻である珠(洗礼名ガラシャ)を愛しすぎています。例えば、妻と目が合っただけの庭師をさっくり殺したりとかします。「俺の妻を視線で汚すな!」みたいな感じで。何なんでしょうねこの人。何考えてるか分かりませんね。何考えてるんでしょうね。
それに正面から切り込んだのが、本作『狂愛烈花』です。
キャラクター性の高い細川忠興という武将を、そのキャラクター性に着目しつつ人間として描き出す難易度の高い試み。並の知識や筆力では空中分解するしかないその挑戦を、本作は見事しっかりと成立させています。細川忠興という男の苛烈な激情。珠という女の聡さと艶やかさ。その両方が高い表現力で鮮烈に表された結果、行われていること自体はやはり理解出来ないのにどこか「納得」してしまう。「ヤンデレ」の物語ではなく「愛」の物語である。そう言えるだけの力を文章が備えています。
忠興は、珠は、お互いに何を欲し、何を手に入れようとしていたのか。本作にその答えは記されていません。しかし答えを夢想することが出来るだけの手触りを与えてくれます。「ヤンデレ武将とそれに振り回される悲劇の女」という理解も間違ってはいませんが、ここはぜひ本作を読み、その先にある二人の「人間」として生き様に想いを馳せてみてはいかがでしょうか。有意義で趣深い時間になることを約束いたします。
長岡(細川)忠興が、愛妻であり明智光秀の娘でもある珠に語る、彼が見抜いた本能寺の変の真実。忠義なるがゆえの謀反。ゆえに「順逆二門無し」。
あくまで、信長と光秀の両方を父のごとく敬愛する忠興の視点から見た真実ですが、それが説得力を持って迫ってくるのは、忠興の持つ覇気と狂気が丹念に描かれ、そして、その覇気と狂気が信長の持つそれと相似形を為しているから。それと同時に、忠興が信長に向ける忠誠と冷静な観察眼が、光秀のそれと相似形を為しているから。
そんな覇気と狂気、忠誠と冷静を併せ持つ矛盾の塊、長岡忠興を余すところなく活描した傑作です。
それと対峙するヒロイン、珠もまた光秀譲りの怜悧と賢明をもって忠興の前に立ちはだかります。忠興の狂気を冷たく見据え「私を殺しなさい」と言い放つ珠の何と魅力的なことか!
それがまた、もうひとりの「女」、愛する夫を謀殺した忠興を殺そうとする実妹の伊也との鮮やかな対比となっています。
信長、光秀、忠興、細川ガラシア夫人こと珠、この誰かが好きなら、ぜひ読んで見てください!