僕らの青い弾丸論破

ダンガンロンパをやっていた。

カチャカチャとコントローラーを操り、最近安くなったスーパーダンガンロンパをしている。

ゲームは最高に面白く、ガンガンに相手を追い詰めて真実を突き付けるのは最高に気持ちが良い。


今日、勤めているコンビニで万引き犯を捕まえた。

表沙汰にはされないものの、今まで日陰者だった僕はヒーロー扱いされ、だがしかし冷静に考えるとわざとらしく逃げて行った犯人の、何かこちらに攻撃する口実が欲しかったのでは、と思えなくもない手際に若干殺意が感じられ、ぞくりとした今日は、皆がにこにこする中一人落ち込んでいた。


僕が生きて行くには、誰かを、そして何かを論破しなきゃいけないらしいが、さして何一つ正しいことなどなく、どこかでいつも計算の上手い人が手引きしてくれて僕は何とか息が出来ている。誰かの掌で寝転がってばっかりだ。


「ご飯よー」


台所で母が呼んだので、「はーい」と返事しながら、母さんたちも、もう年だ、と軽い絶望をしてみる。

絶望症、なんつってな。

この世は少しの絶望と希望でプラマイゼロだ。

今日弟とフットボールをした僕はお腹がぺこぺこで、弟はさっさと寝てしまった。

明日も早く起きるだろう、そしたらまた二人で公園に行こう。

僕は昼間弟に飲ませた頓服の入った袋を戸棚のガラス戸に認め、比較的軽い薬なのに安堵した。


「生きていたらね、誰でも病気をするものなのよ」

そうバイト先のコンビニで、上司に慰められた。

僕が警察に色々聞かれて困った、僕は障碍者だから、と言うと、上司の女性は、私だって喘息持ちよ、と笑って下さり、生きて68にもなれば誰だって病を経験する、それは仕方のない事だ。

ただその設定をどうか重荷に思ったり、線を引いて考えないで欲しい、大事なのは心だけなのだから、心さえ大切にしていれば大丈夫、大丈夫。


そう笑顔で諭されて、僕はようやく、はい、と素直にこの世の悪い冗談にも笑顔を返せる気分になれた。


公園で、僕たち兄弟を見て嘲笑う醜い可笑しな人間が笑うのを振り返って、思った。

あんたらはこちらを勝手に見下しているようだが、僕たちは僕たちでやることがある。あんたらもいつまでもこちらに頼ってないで、早く自立しろ。

でなきゃ、いつまでも醜い肥えた豚のままだ。


今日、僕たちのプレイに「ナイスボール!」と声を掛けて下さった方々が沢山いた。僕たちのために場所を空けて下さった。仲良くやろうと言って下さった。


「ゴーール!!」


弟は久しぶりのサッカーに喜びハットトリックをかましている。

僕たちが助かるためには、どうにか奴を引き上げるしかないらしい。


そこに他者はいらない。侮辱を論破する気もない。ただ黙々と作業するだけ、打ち込むだけ、言葉はいらない、ただやるだけ。


この世の皆さま、いつもいじめをお疲れさまでした。もう終了です。


僕たちに杯は上がった、後はゴールをワンカウントずつ決めるだけだ。

こいつと僕は、生憎サッカーだけは上手いんだ。


僕は先日主治医から注射を止めましょう、と言われた。もう大丈夫でしょうからと。

今日のニュースが町中を駆け抜けたなら、また僕らへの関心や意識も違ってくるはずだ。


あの万引き犯の方は、誰から使わされたのだろう。気の毒だがしかし、何はともあれ助かった。そう僕は捉えている。


ただただひたすら、見えない者に僕は思う。

もがいて良かった、生きてて良かった。


ファイティングポーズは、無言で取るものだ。

それを教えてくれたこの世に、僕はゆっくり笑顔で「ありがとう」と唱える。


弾丸トークも炸裂論破も必要ない、喧嘩などしなくていい。


ただただ目の前のことに打ち込んでいればいい、ただそれだけだ。


それだけが僕の論破だ。

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