悲しいことー!
その日、私はクラスの総選挙で、屋上から一人お笑いをせよとの指令を受け、がくがくぶるぶるとこいつら、全員足の小指骨折しろ・・・!と怒りに震えあがった。
しかしぼっちの悲しい事、こういったことを相談する相手もいない。
一人体育館の隅で、練習するように申しつけられ、学級委員長がネタを作り、猛特訓に付き合ってくれるという。
「さあ小波さん声張ってー!悲しいことー!!」
「・・・悲しいことー」
「一人で弁当食うことー!!」
「・・一人で弁当食うことー!!」
なんだこれ、いじめだろ。
いじめだよな?
そう思って睨みつけながらやけくそで叫んでいると、「いいねいいね小波さん、その目だ、その闘志だ、君ならやれると思った!さあもう一度、悲しいことー!!」
「悲しいことー!!!」
最早やけである。
ある日はぼろぼろ泣きながら、ある日は真っ赤になりながら、私はやり遂げた。
そして最後の日、学級委員長から思いもかけぬことを告げられた。
「先生ね、死んじゃうんだって、もうすぐ」
「死ぬ前に、小波さんがみんなと仲良くしてるところ見たいんだって」
嘘。
こんなに深い意味が込められた今までの悲しいことー!だったのか。
私は全クラス員の想いを胸に、今叫ぶ。
この屋上から、先生へ。
すうっと息を吸って、叫んだ。
「悲しいことー!!昼に弁当一人で食うことー!!悲しいことー!隣に誰もいないことー!!悲しいことー!!みんなが私に秘密を持ってたことー!!悲しいことー!!私は一人じゃなかったのに、また一人になることー!!悲しいことー!!見守っててくれた人がもうすぐいなくなっちゃうことー!!悲しいことー!!たくさんたくさん、これからもこんなことが繰り返されていくことー!!悲しいことー!!家に帰ってもお母さんがいないことー!!悲しいことー!!お母さんだったらいいなって思ってた先生が、大好きな先生が、一番見ててくれたのに、もうじきいなくなっちゃうことー!!悲しいことー!!みんなが私に秘密にしてたのに、一人だけ知らなかったことー!!悲しいことー、みんなのことが、私も好きになっちゃったことー、悲しいことー、悲しい、悲しい・・・」
最後は涙で言えなくなった。
委員長が抱きしめてくれた。先生が頭を撫でてくれた。みんなの輪に入れた。
これが最後だということ。これが中学三年生最後の思い出になるということ。
悲しいことがこれからも、沢山沢山あるだろう。そのたびに思い出す、私を取り巻いていた優しい世界のことを。優しい箱庭のことを。
悲しいことー!!いつか思い出せなくなる日が来るかもしれないことー!!
嬉しい事、みんなの中に私も確かにいたということ。
その中には、変わらずみんながいる。
いつまでもいつまでも、永遠に、そのままに。
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