大笑いの人生でした。

君との人生は、大笑いの人生でした。


君は道で犬を見れば、顔を近づけてうーと言い、絶望的な夢を見ては泣いて僕を困らせた。

君は永遠に子供みたいに、道の上で跳ねて「早く行こうよ!」と笑ってホースの水を飛び跳ねさせた。


ウルフルズとブルーハーツが大好きな君は、ギターをかき鳴らしては「このままー、どこかとおーくうー、つーれーてーってー、くれないーかー」とベランダで歌っていた。

それがパンツ一丁でおっぱいすら見えていたのだから、僕は初めて見た時たまげにたまげた。

それから君が、「はーい、お茶しない?」と僕に手を振って、僕はうっかりその気安さに引かれて部屋に入ってって、それから君におっぱいを触らせてもらって、「揉んでもいいよ」と君が言うから、どこからどう見ても童貞な僕はうっかり泣いてしまった。


世の中には、こんな女の子もいたんだなあ。



君の部屋はCDが散乱していて、それは大抵リサイクルショップで買うのだと聞いた。

予定の無い君は、アルバイトをしてはガハハと大声で笑いに笑い、帰って来てウーロンハイを淹れて待っていた僕に「あたし酒駄目だから」と意外なことを言ってウーロン茶をがぶ飲みしていた。

それから「酒よりもっといいもんあるよ」と言って、僕を坂道の下に連れて行き、「タッチ、あんたが鬼!」と言って走り出した。僕はもちろん追いかけて、ぎらぎら太陽が照らす午後5時頃、汗だくになってはあはあ言いながら「あー、可笑しい」とゲラゲラ笑ってお互いを捕まえ合った。抱き合っていたようなものだ。

周りの大人は若い人がはしゃいでる、と笑ってみていた。どの人も老人ばかりだった。


僕は君に結婚を申し込んだが、君は「あたし毒物だから駄目」と言って頑として首を縦に振らなかった。

君が僕と出会わない日、僕が付けて行くと、君は大きな病院に入った。

僕がそこに入ると、そこには頭のおかしな人ばかりいた。

口を開けて笑っている人、泣いている人、首をぐるぐる振る人、怒鳴り散らす人。

君は小さくなってそこに座っていた。

君は繋がれていたんだね、僕は悟って、その隣に腰かけた。

びっくりした君に、「大丈夫、僕もこれがあるから」と言って、僕は腕にびっしりとある火傷の後を見せた。君に半そで姿を見せるのは、あれが初めてだったなあ。いつも暑くて仕方なかった。


君は、静かにそれを見てから、「お母さんにやられたの?」と聞いて火傷に触った。

「ううん、名前も知らない大人だよ」

僕はそう答えた。

周りの喧騒の中、僕たちは額を合わせて静かにしていた。


それから日々が始まった。

僕は職探しをして、居酒屋の皿洗いをとにかく頑張り、君はアルバイトに入りまくった。

虐められもした。場違いな二人だと馬鹿にされもした。壊れた二人だったけど、ブルーハーツもウルフルズも優しいから、まだ世界は優しいんだと思って生きていける。


僕たちは80歳になるまで生きようと言った。

そしたら何か、違ってくるさ。

80歳まで元気でいたら、大笑いの人生がやってくる。

それから二人、ぽっくり逝こう。


げらげら笑いながら、僕たちは「日曜日ー、よーりのおーしーしゃー」と歌って繋いだ手を空中で降り、階段上でジャンプした。

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