この世の見えない輪っか野郎ども

この世には、目には見えない輪っかがある。


「きゃはははは、待って待ってー」

「押-すーなー、押すなってば!」


あれは内側の人達。


対してこっちは。


「・・・楠君なんで来たの」

「え、なんでって」

「・・楠君来なかったら部員不参加で休みだったのに」


はーあとため息吐く植木部の部長、蒲公英先輩と、私楠こと純粋にガーデニングが大好きな部員、楠佐保子。


ぎゃはははは、と金髪のジャラジャラしたものを腰に巻いたヤンキーが通り過ぎるたびびくつく我々の集合場所はゲームセンター前、蒲公英先輩のふわふわ頭が思いついた部員蹴散らし願望におあつらえ向きの場所である。


「あーあ、楠君来なかったら、このままゲーセンでユーフォーキャッチャーしてふわふわのぬいぐるみ取って帰ったのに」

「・・・・・・」


「みーんなー、おまたー!」


無駄に爽やかな30代、小麦先生が現れた。頭には麦わら帽子にヒマワリがあしらわれ、ノースリーブなワンピは海か花畑にでも行くんですかと芋ジャージな我々は問いたい。


「じゃ、行こっか」

「あーあ、楠君のせいで・・・」

「・・・・・・」


我々はそこから地下鉄に下り、電車に揺られて隣町まで色々乗り換えて揺られていった。

最終的に乗ったのはバスだった。


「・・・どこですか、ここ」

「私の実家でーす、あ、みんなには内緒ね」


小麦先生があっかるく色気を振りまきながら言う。ご機嫌なのはあの、現地らしきところに立っているイケメンのせいだろうか。


「おかえりー」

「ただいまあっくーん、久しぶりー!」


イケメンは身長が高く、色が黒くて手首にミサンガを巻いていた。海人みたい。

蒲公英先輩がぎりいっと爪を噛むのが見え、なんだかなどうだかな、と最近流行りのラップ調子で心の中で呟いた。


「はーい、じゃあ、この楠植えてってねー、今から俺の車で山登りまーす」

「え、はい」


思わず返事した。

え?とイケメンと顔を見合わせ、ジャージに書いてある名前を見て、「なんだ、そっか」とイケメンが笑った。

さーっと風が通り抜けた気がした。さ、爽やかすぎる・・・!

私は一瞬恋に落ち、さっさと忘れた。

小麦先生が「あっくん重ーい」と色気むんむんに植木を持ち上げて見せたからだ。

あれには敵うまい。


「おのれ、あっくん・・・」

「蒲公英先輩も手伝ってくださいよー」


私はひょいひょい植木を軽トラに載せながら、蒲公英先輩の背中を小突いた。

先輩は「ジャージが汚れた!」と怒ってからぶつぶつ言い手伝い始めた。


車でガーッと山道を登っていると、荷台の我々に集る虫たち。

「見てください、ミヤマクワガタ!」

私がしっかり掴んで言うと、「こっちはカブトムシ」と蒲公英先輩が少し興奮気味に言った。


下りてから「ここ狩猟禁止区域だから、全部放してね」とあっくんに言われ、はーいとみんな逃がした。

単にめんどくさかったんだろう、虫が嫌いなのかな。

ちらっと見たが小麦先生にしっかり視線をガードされ、目は合わなかった。


最初から彫ってあった穴に、順々に植木を植えて行く。

樹液がたっぷり出ている奴があり、それを持って小麦先生が「やーん」と色っぽい声をあげ、あっくんが「しょーもないことすんなよ」と怒っていた。


蒲公英先輩が天パに樹液が引っ付き、悲痛な叫びをあげていたので助けてあげた。水を掛けて。

「・・・ありがとう」

睨みながら言われた御礼には怨嗟の念がこもっていた。


帰り道、山の上から見上げた夕日は美しかった。

とりあえず解散となった駅前で、蒲公英先輩はまっすぐゲーセンに向かい、私はどろどろになったので小麦先生と一緒に銭湯へ向かった。


「見て見てー!」


意外と虫マニアな小麦先生が、虫かごを見せてきたのには苦笑した。

中にはアゲハチョウが入っていた。


あっくんに取ってもらったんですか、と聞こうとしたら、これを取るために皆に隠れて木に登った、その死闘たるや如何に、と先生が語りだし、ワンピのボタンが取れかけなのを「直してあげますよ」と請け負った。


小麦先生のこういう所が好きだ。

蒲公英先輩は嫌いだ。


私達の夏休みは、こうしてある一日を閉じていった。

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