私のお昼は誰のため?

真理さんさあ、舐めてんの?


・・・・・・・。


年上後輩が入社してきてから、いやーな予感はしていた。していたが、まさかここまでとは。

この女は24歳、私は19歳。


私は高卒で働き、何とかこの会社で事務員をしながら一年目を越し、お局様たちからの苛めにも耐え、なんとか地位を確立してきた。

出来る新人、だったはず。昨日までの立ち位置は。


だが、一か月前からこの24歳の美女が入って来てから、何もかもが狂いだした。

気が付けば、鞄のジッパーが開いている。

メモの中身も読まれた形跡があり、休憩タイムに読む予定だった推理小説はめちゃくちゃにページが折られている。


お前だろお前!!と言いたいのを堪えて、笑顔を作ってやってきた。しかしそれも今日で限界だ。


今日こそ、社長に言う。直訴する。

だがその前にお局様たちに話す。


そしたら、だ。


「真理ちゃん、それはあなたの思い過ごしだと思う訳よ」

「は?」

「よーく考えてみて、あなた最近行動が変だったわよね、一人で笑ったりぶつぶつ言ったり、小説?なんか休憩時間も一人本読んでるけど、机に向かってせっせとページを折ってるじゃない、みーんな同じこと言うわよ、試してごらんなさい」



あ、



あ、そですか、

そういうことですか。

おわた。


終わった、そう思った。


みーんなあの女の思い通り、私は消耗係に選ばれたのだ。

曰、みんなのストレス発散係に。


以来、何かあると、「真理ちゃんの為だと思うの」と用事を言いつけられ、外に菓子を買いに行ったり、愚痴を延々聞かされたり、かと思うと急に腕を掴んで揺さぶられたり。

母に相談した。


そしたら、母が「でもね真理、世の中ってそんなに甘くないと思うの、今お父さんの会社も上手くいってないし」と、耐えろ、と指令を出してきた。


なので、耐える道を選んだ。

ゲーム脳だったのが手伝って、その内、「これもノルマかあ」と思うようになり、何をされてもただ美しくあればいいんだ、と化粧だけはばっちりして行って、「あなたのそういうとこ、可愛くないわよ、ブスだと思うわよ」と顔を近づけて睨まれても、「あ、そうですかー笑」と受け流せるようになった。

「てめ、なんなんだよ」と後から入った新人がつっかかろうとしたが、「あれー?暴力ですかー」とペンをちらりと見せたら、う、と詰まって引き下がって行った。


最近テレビでやってた盗聴器型のペンが流行りだし、私はポーズだったがなんとか乗り切れていた。


その内相手の、あの24歳の女が病みだし、私はせっせと業務をこなして男性社員のYさんにお食事に連れて行ってもらえ、「頑張れよ」と背中を押してもらえた。

Yさんは、あの女が好きな上司だった。


兎にも角にも色目を使いまくるあの女は、結局寿退社して、「好きな人と結婚できなかったけど、これも仕方ないよね☆」と涙を見せてみんなから抱きしめられて出て行き、その瞬間はー疲れたーとばかりに苛めが終了したのを見計らって、私は社長にICレコーダーで撮りためたあの女の所業と皆の態度、非礼、凄惨な修羅場を記録した手記を見せ、見事女子全員にペナルティを加えて慰謝料を貰い、有休を使って3週間会社を休めることになった。


はーお疲れー。


母とそう話し、肩を揉まれて、ぐちゃぐちゃになったあの日の小説を読み始めた。


人が休憩時間何してようが、人の勝手。私はそう思う極少数派である。

どれもこれも、みーんな出来ちゃった婚したあの女のお陰である。


後日町で見かけたが、相変わらず幸せそうに微笑んで男と腕を組んでいたが、旦那さんじゃなかった。


私は静かに、シャッターを切った。

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