散った桜を醜いと思いながら、同時に愛おしくも思う。

記憶は時を経て、美化されていく。
桜は毎年、同じように咲き、同じように散る。
記憶の中の桜と、現実の桜の差は広がり続ける。
毎年、現実の桜は劣化していく。

彼女の中にある「あの頃」の彼は、本当に憧れるほどの輝きを放っていたのか。
彼女の目の前にいる「現実」の彼は、実は「あの頃」とさして変わってはいなのではないだろうか。

彼は劣化していく。
彼女の目にはそう映る。

それでも愛おしい。
愛おしいのは、記憶の中の彼ではなく、目の前にいる彼。

彼女が孤高であったという彼は、記憶の中でさえ決して孤高ではない。
彼女に依存することで、そう振舞えていたに過ぎない。

この二人の相性は最高で最悪なのだろう。
彼女はそのことに少し気付いている。
記憶の中にある都合の悪いことに目を瞑るように、気付かない振りをして、彼の口付けを受け入れるのだ。

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