011

「あなたにとって、『ただの人間ですよ?』と同じなんですね、多分」

 評議会のあと、菫野から言われた。

「さっきはやっぱり強く言ってしまいましたけれども。あのときは――私も、あまり冷静ではなかったように思います。考えたこともなかったようなことを、会長が言うので。帰宅して頭を冷やしてから考えました。でも、やっぱり解りませんでした――いえ、解ります、会長の言う、命の尊さは確かに考えなければならないものだというのは、多少失念していたように思います。でもやっぱり、それではやっていけないと、私は思うのです。改めて自分や、人間の暮らしを考えて――私たちだって同じ生物であり、他の生物だってそうです。結局私たち生物が生きて行くためには、多かれ少なかれ自分本位に考えて行くことが定めというか――会長にとっては、呪いなのかもしれませんが。だからまぁ、今日はむしろ前よりも確信を持って推したわけですけれども」

 そんなような内容を話した。彼女も彼女で悩んだみたいだった。ちょっと驚く。

「いや、結局はそれで正しいんだと思うよ、麗貴ちゃん――目を背けずに、その不条理…………いや、理屈は正しいんだけれども、それにしっかり目を向けることが出来れば」

 結果的には、菫野が正しかった

「それに、決して――あれは会長の……日向子さんの責任ではありませんよ」

 どうやらまだ私は辛気臭い顔をしていたらしい。

「ほんとはまだ、整理し切れてないんだけど……でも、大丈夫だよ。ありがとう麗貴ちゃん」

 すぐにすっきりしたわけではないし、そんなはずでもなかった。

「あの、ごめんね、あのときは」

「いえ、私の方こそ――私だって目を背けていただけかもしれませんし」

 このとき私は私たちを俯瞰してしまい、なんだか臭い青春もののお約束な終結を見ている気分で、半笑い、半呆あきれだった。

 こう収まるのかぁ〜って。

 まぁ、良かったのかも。それも私らしい。

 新しい、私らしさ。一抹の虚しさは、一抹だった。

 今回の一連の流れは、しっかり目を据えて、人を見て、自分を見て、生き物を見て、比べて、天秤に掛けて生きて行くことを、遅ればせながらも知れた、青春のほんの一頁ページである。

 になって振り返ればそう思えた。

「逆に、良かったのかもしれないね。なんか。その、歩み寄れた感じがする。今後はさらに生徒会として活躍できそうだし。頑張ろうね!」

 言われた菫野も少し恥ずかしそうに微笑む。

 そんな感じの台詞で、私の青春は一つのピリオドを迎えたのだった。

 きっと、欠けなく大きく育っていくだろう。

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