生徒会長の手記

不定

―まえがき―

 この文章は私の高校時代の日記を小説調に編み直したものであり、章の番号はそのまま時系列になっている。執筆した目的は、もし、私と同じような非業災害級の『病』を患ってしまった後輩たちがいるとしたら彼らに、曲がりなりにも先駆者として、どういう先例があったかを単に示しておいて差し上げようというだけである。いや――そんな大層なものでもない。

 思春期にぶつかる壮大な、壮大な問題は――ときに悲惨に、ときにロマンティックに、ときに運命的に、劇的に感じる牆壁しょうへきは――しまえば、案外ただの思い出だ。その記憶は圧縮されて、混ざりあって、沈んだり浮き上がったりして、たまに水面に波紋を立たせる。それがとなって自らを育てたり、となって腐らせたりもする。苗木が昔、大きく思えた障害物は、それを超えていつか幹を太らせ枝を伸ばしたときにはもう見下ろすものでしかない。でも、そのはばみがあったかなかったかがそれより後の樹の成長を左右しているのは、幹の模様や枝の一本一本とその数、葉を見ても明らかだろう。どんなに小さな虫だとしても、苗木から見れば天敵であり、成木からは最早見えないものだ。つまり――そういうことだ。どうしたって反応せざるを得ない。ただの思い出になったのは今のあなたの成長の賜物。だから後から過去を馬鹿にしないで欲しい。そのときのあなたにはつも避けるも得難い天敵だったのだから。

 しかし、では、はどうだろう。苗木の成長は止まったまま、新芽をかじり続けられたまま、いたずらに根を伸ばし幹を腐らせていびつななにものかへと変容していく、かもしれない。新しい枝が生えてくれば上出来だ――やっぱり話をまとめるのは苦手なので、尻切れとんぼではあるものの、まえがきはこの程度にしておく。

 ████年█月██日 小鉢日向子

(追而書)やっぱり宛のない手紙になりそう。

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