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私は孤児だ。孤児だった。孤児になる前は、被虐待児童だった。そういう話を、そういう単語を口に出すと、それを聞いたみんなは一様に気の毒そうな顔をしてくれるけれども、むしろそうしてくれた方が私としては心苦しいものがあった。だから、中学生の中頃から、自己紹介のときにそういう話をすることはやめている。周りがざわざわするのも嫌だった。風に揺られて鳴いてる林の声みたいにざわざわする。台風の叫号じゃあなくて、あくまで微妙な風のざわざわだ。しかしながら私自身に、虐待を受けていたという実感はない。ここまで生きてこられたことを振り返っても、今五体満足で生きているんだからそれ以上には、という風にしか思わない。それでも私が、正直な身の上話をする際に避けて通れぬ「虐待」がなぜ首を
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