歴史小説のお手本
- ★★★ Excellent!!!
歴史小説を書く人はどこの小説投稿サイトにも多く、一定数のファンも存在します。
ですが、この分野はひどく誤解されています。
なぜなら、「歴史小説とは何か」が解っていない人がたくさんいるからです。
歴史小説を書くために必要な要素は幾つかあります。
それは、戦国武将の名前をたくさん知っている事でもなく、大砲の口径を丸暗記している事でもありません。
19世紀のコルセットの形やスカートのヒダの数を知っている事でもありません。
一方、この作品には、歴史小説を書く上で必要な要素が詰まっています。
一体それは何なのか。
まず、歴史とは何か考えてみましょう。
歴史とは、社会の変遷を記録したものであり、社会とは、個人の生活を束にしたものです。
小説において、社会を表現するには、まず個人を描かねばならず、個人はその生活によって小説上に再現されます。
歴史小説は、巨大な歴史のうねりが個人の人生にどのような影響を与え、もてあそぶかを描くものです。
これを解っていない作者が書いた小説は、決して歴史文学ではなく、ただの借景文学でしかありません。
本作品においては、大正の終わりから昭和十年代の少しづつ閉塞していく日本と、そこで暮らす市井の人々の生活が体臭を伴って描かれています。
文章から推測するに、作者はしっかりとした資料集めと綿密な取材をしているはずです。そうでなければ現地の空気感をこうも生々しく表現できないでしょう。
歴史小説を描きたいと思っている方、書いていてもうまくいかないと考える方、また、人間の描き方が苦手な方、ぜひこの小説をお手本にしてください。
間違いありません。
おすすめです。