戦記物と冒険物はここまで見事に融合できるのか、と感動しました。
紙のエンターテイメント小説と比較しても何ら遜色ない出来です。
旅をする中で徐々に礼次郎の人間的魅力に惹かれて集まってくる仲間達。そして旅先で出会い、誼を通じていく上杉、真田、伊達などの各大名達。
主人公の礼次郎を中心に据えつつも、こうした脇キャラ達にもきちんとスポットライトが当たり、キャラが生き生きとしています。
合戦の様子もかなり細かく描写され、敵味方ともに作戦、戦略を駆使して戦う様は見所充分。
また礼次郎を中心に一対一の戦いも多く描かれ、宿敵の風魔玄介、好敵手の仁井田統十郎らとの戦いは手に汗握る臨場感です。
勿論それだけでなく、エンターテイメント小説として作品に華を添える、美濃島の女頭領・咲や、武田の姫・ゆりなどヒロインも非常に魅力的です。
特に礼次郎とゆりのラブロマンスは必見で、戦記物やアクションだけでなく、ロマンスまで書けるのか、と作者の力量に脱帽します。
歴史風味のエンターテイメント小説が読みたければ、この作品を読まない手はありません。
作品が長いというのは、つまり戦記物として非常にボリュームがあると言い換える事が出来ます。
ご自分のペースで結構です。是非ゆっくりゆったりと礼次郎達が織り成す戦国の世界に嵌ってみて下さい。
高い身分に生まれた少年が、何らかの事情で故郷を離れ、様々な試練を乗り越えて王として帰還する。
古今東西で語られ続けてきた神話のかたちです。
また、未熟だった子供が庇護者の元を離れて、様々な人物との出会いと別れを繰り返しながら一人の人間として成長する。
これも近代小説において成立した小説のかたちです。
「天哮丸戦記」は見事にこの普遍的なテーマを小説上で再現したうえで、エンターテイメント性の追求にも成功した小説です。
次々と増えていく仲間たちや、彼らの悩み、好敵手の登場や、頼りがいのある盟友たち。
また胸苦しくなるような恋愛模様も描かれています。
まるで少年漫画のような楽しみがこの小説にはあります。
長さに驚く方もいらっしゃるかもしれませんが、程よい字数で区切られているため、何日かに分けて読むと心地よい読書体験が得られるはずです。
お勧めです。