My lady greensleeves
南 伽耶子
登場人物紹介
文士 ・碧生蒼太郎…本編の主人公。大正三年(1914)湘南地方の裕福なミカン農家の二人兄弟の末っ子として生まれる。年の離れた父そっくりで権威的で家を守る事が第一義の兄がいる。美しく聡明な母に可愛がられて育つ。小学校に通う頃、知恵遅れのおがたさちお(さっちゃん)という少年と仲良しになる。大正12年(1923年)9月1日、関東大震災で友人のさちおを目の前で失う。昭和四年(1929年)海軍飛行予科練習生に合格。昭和五年(1930年) 霞ケ浦、次いで横須賀の飛行学校で訓練を受け軍籍を得る。優秀なパイロットとして育つが昭和七年春・帰省時に母の異変に気付き同年9月急激に悪化した肺病により母を失う。翌昭和八年自身も結核を発症し肺に穴が開くという劇症型で除隊。父と兄により実家に戻る事叶わず、海軍病院退院後は父の愛人と共に小石川に住むことになる。年若い父の愛人に冷たい態度をとるが愛人さやは献身的に尽くす。翌昭和九年、回復し師範学校に入学・入寮。人間関係のストレスで肺病再発、退学になり愛人宅に帰る。そのころからぽつぽつと詩や随筆、短編を書き始め文芸誌に応募した作品が認められ、自活の道が開ける。出版社を介して知り合ったサナトリウムの経営者の医師徳永に勧められ、彼の立派なサナトリウムに移り父の愛人と一夜の愛を交わして別れる。サナトリウムで知り合った少年の姉で、自分のファンの大学助手の文学者の卵・間宮リカと知り合い、反発しながらもひかれあう。昭和十年に親友の陸軍曹長・柘植とさやが結婚。昭和十一年、2・26事件の混乱の中叛乱軍の妻となってしまった懐妊中のさやを助ける。文筆で食べていく決心をし、四ツ谷の柘植とさやの家の近くに古屋を借り、毒母と別れて家を出たリカと同棲する。
碧生蒼太郎の父…湘南のミカン農家。元々地主ではあったが明治に入り横浜の洋食屋やホテルにおろす西洋野菜や果物の栽培で富を得る。長男(蒼太郎の兄)を家長として教育するが次男の蒼太郎には無関心。結核になった妻を人目を気にして死ぬまで蔵に押し込め、発症した蒼太郎も実家に戻らせず東京の自分の愛人宅に住まわせ世話をさせる。蒼太郎の留守中にも愛人宅にしばしば上がり込む。
蒼太郎の兄…碧生蒼太郎の年の離れた兄。長子としての教育を受け、早々に家を継ぐべく尋常小学校しか出ていない。厳格で長男気質。年の離れた弟を可愛がってはいるが甘やかしてはいけないと思っている。妻と幼い子供を護る為結核発症し除隊した蒼太郎を実家に寄せず、父の愛人宅に住まわせることに決め、手紙で知らせる。まめに送金したり愛人と手紙のやり取りをして様子を聴いたり気にはかけているし、愛人に一定の敬意を払っている。
蒼太郎の母…横浜の女学校を出てミカン農家の碧生家に嫁いだ、聡明で美しい母。夫と長男に放置されがちな蒼太郎の優しさをほめ、伸ばしてやる。子供思いで自分の事は後回しにしたせいで結核の発見が遅れ、家族に蔵に中に隔離され、蒼太郎の見舞いを受けた後死亡する。愛人の存在を知っていたかどうかは不明。
蒼太郎の父の愛人・永瀬さや→柘植さや…湘南の碧生家に奉公に来ていた少女の時分蒼太郎の父に手籠めにされ、成長後愛人になる。東京の小石川に小さな家を与えられ、買い付けや仕事にかこつけて上京する蒼太郎の父の玩具となっていた。肺病で除隊した旦那の息子が転がり込んだ事で世話をする。反発されつつ若く才能のある姿に惹かれていくが自分の気持ちは押さえている。蒼太郎がサナトリウムに行く直前、気持ちが通じ合い、一夜を共に過ごして見送る。蒼太郎の本目当てで通ってくる親友の柘植に一目惚れされ結婚する。2・26事件で夫が叛乱軍となり自殺を図るが自身の懐妊を知り、検問を突破して来た蒼太郎や片桐絵師に助けられる。軍法会議御釈放された夫とつかの間の生活をするが満州に派兵され、蒼太郎やリカと共に留守を待つ。一見弱々しいが強い女。
蒼太郎の親友・柘植譲二…蒼太郎の湘南の農村時代からの親友。家が貧しく小学校を中退し幼くしてさまざまな職を転々とし、陸軍に入り下士官となる。パイロットをあきらめ文壇デビューした親友を素直に祝い、彼が世話になっていた女性を事情を察しつつも愛する。所属していた部隊が2・26事件の叛乱軍となってしまい、陸軍法廷で裁判を受け降格されたうえ妊娠中の妻を置いて満州に出征する。
蒼太郎の幼馴染 おがたさちお(さっちゃん)…湘南の蒼太郎の家の近所に住む、少し年上の知恵遅れの少年。小学校には行っていない。出征した兄と横浜に住むクリスチャンの姉がいる。姉の影響で聖書の祈りの言葉をそらんじることができる。蒼太郎と仲良しになるが火の見櫓の上に上って出征した兄を見つけようとしている最中大震災に襲われて落下・死亡する。
女性ライター兼大学助手 間宮リカ… 大正5年(1916年)東京と築地の聖路加病院で生まれ、四ツ谷舟町の一軒家で父と母と、体の不自由な弟のヨハネと書生たちと一緒に何不自由なく育つ。父は政治家ゴシップ専門の新聞記者で大正天皇崩御の取材中に死亡。母は江戸時代から続く老舗の和菓子屋の娘で奔放、夫の死後は書生たちと次々関係を結び、中でも大学生の槇村良吉と長く付き合い、他の書生たちと娘も逃げていく。父の死後、親戚に縁談を持ち上げたことがある。気ままで男出入りの激しい母が嫌になり女子大の女子寮に入り、後に四ツ谷愛住町の柘植夫婦宅の隣に碧生蒼太郎と同棲することになる。
間宮ヨハネ…間宮リカの5歳年下の弟。体が弱く脊椎カリエスで車いすに乗っている。幼い頃から徳永医師のサナトリウムで暮らしている。名前の由来は「福音史家聖ヨハネ」から。実は母と書生の槇村の子ではないかと言われているが本人はそのことを知らないし槇村にあったこともない。姉思いで文士・碧生蒼太郎を尊敬し二人が結ばれるのを望んでいる。
間宮リカの父・間宮道彦… 東京の新聞社の政治記者。といっても議会や総理府官邸担当ではなく政治家のゴシップすっぱ抜きを得意としている。大勢の弟子、妻、娘の尊敬を得ている。大正15年12月25日の大正天皇崩御の取材で体に負担をかけ、心臓まひで死亡。
間宮リカの母・間宮ゆふ…リカとヨハネの姉弟の母。江戸時代から続く老舗和菓子屋の末娘でお嬢さんとして我儘放題に育ったため家事が苦手。夫が生きていた頃は精力的な夫で満足していたが、死後は奔放さが開花し、大勢の書生と肉体関係を結び中でも槇村良吉とは長く続いた。やがて自分に絶対服従の槇村を暑苦しいと疎んじ、家から追い出す。奔放だがリスクは全部自分で背負う覚悟はしている。潔癖で自分をなじる娘を小ばかにする態度をとる。
槇村良吉…元大学生で 間宮リカの父・間宮道彦記者の屋敷に居候する大勢の書生の一人だったがリカの母・ゆふと肉体関係を結び心身共に依存するようになる。リカの父の死後も間宮家に留まり大学を中退し文筆関係のアルバイトで暮らす。だが自堕落で安心しきった関係にゆふが飽き、捨てられる。茫然と友人宅を転々とするうち大学の元友人に労働者のための出版社の事務仕事を紹介される。仕事をそつなくこなしていたがたまたま見に行ったプロレタリア劇団の主演女優に一目惚れし、出版社を辞め劇団で働く。初めて書いた劇が急場しのぎで上演されると評判になり、特高警察に追われる中、間宮ゆふの面影を吹っ切り主演女優と結ばれる。演劇にのめり込むあまりソビエトのスパイとなった富士見レオ少年の手引きで二人でウラジオストックに渡り、スターリンの大粛清の嵐が吹き荒れるモスクワに立ったまま消息を断つ。
佐田芳子…プロレタリア劇団の主演女優で頭脳明晰、さばさばした女性。衣装以外ではスカートはけしてはかず、いつも男物のスラックスとシャツやセーターで過ごしている。喫煙者。アカハラ&セクハラで男性恐怖症、演技では大丈夫だがプライベートでは接近されると吐き気がしてしまう。槇村は男と見ていないので大丈夫だった。特高に追われて槇村と逃げ、意気投合し共にソビエトに渡る。
絵師・片桐惟人…間宮道彦記者の古い友人でヨーロッパ帰りの貧乏画家。挿絵や便箋を封筒などの図柄を書いて収入を得ているが好きな音楽や楽器、本や画材にすぐ使ってしまう。アトリエと称する四ツ谷のあばら家に住んでいる。幼いリカやレオ少年、さやをモデルに金にならない油絵を描いている『全身趣味に生きる男』。実はドイツ共産党のシンパでリヒャルト・ゾルゲとも繋がっている。
富士見レオ…大正14年東京麻布生まれの薄茶の髪と彫りの深い顔立ちの少年。父は白ロシア系日本人美術商。母はドイツ系ロシア人。昭和8年、9歳当時地元神社の祭りでリヒャルト・ゾルゲに出会う。ヨーロッパ音楽と美術を好むのでミッションスクールの子供達の間で浮いてしまう。出入りの古書店の店主の紹介で絵師片桐と出会い、モデルを務める。次第にリヒャルト・ゾルゲに惹かれ接触するようになる。
山崎みか…昭和5年、女学校を中退し富士見家に奉公に来る。当時6歳の富士見レオ少年の子守役として仕え、彼が青年になりスパイ活動をし、ウラジオストックからモスクワに渡っても忠実に仕える。スターリンの大粛清の時代を生き延びる。
神父 湯浅哲久… 謎多きカトリックの司祭。若くしてヨーロッパに留学し神学を学び、帰国後は目白のカトリック教会で司牧に従事し、近くの徳永医師のサナトリウムに懺悔に行ったり、入院している司祭や修道女のためのミサをあげたりしている。戦前特高に弾圧されているプロテスタントの牧師ともつながりがあり、情報のやり取りをしている。スペインの修道会ネットワークとそこから繋がる情報網で海外の様子を知っている。
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