My lady greensleeves

作者 南 伽耶子

12

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★★★ Excellent!!!

――

軍国主義へと進んでいく日本を舞台に、危うい青春を描く。実はこれ、非常にレビューが書きにくい作品である。
密度が高く、登場人物も多い。しっかりと調べこまれた舞台が設定集としてではなくきちんと息づいている。しかし、複雑なのだ。

描いている時代が、とにかく複雑だから。


だから、一人、わたしの大好きな登場人物を紹介しよう。

間宮リカ。
奔放な母親の娘として生まれ、時代の要請する女性像にあらがい――しかし、ある意味では、非常にその時代の女性性を体現してしまうような少女だ。
傷つきやすいのに気が強く、とにかく戦う気まんまんの彼女を含めた登場人物たちを、時代は容赦なく振り回す。

緻密に書きこまれた物語。

★★★ Excellent!!!

――

物語は大正年間に始まる。
主人公の2人、藍生蒼太郎は大正3年、間宮リカは翌4年の生まれだ。
2人は幼時に関東大震災を経験し、軍国主義の台頭を目撃し、
次第に高まる社会不安の中、儚くも強く青春時代を過ごす。

純文学というジャンルが具体的にどういった特徴を持つのか、
私は未だよく理解していないが、本作が純文学なのだろうか。
重厚である。緻密である。さらりと読み通すことはできない。
おもしろおかしくはない。けれども、確かに「おもしろい」。

本作のその「おもしろさ」の正体は、一体、何なのだろうか。

ひとつ確かに言えることは「一貫したリアリティの存在」である。
「何年何月何日に何が起こったか」が膨大な資料の上に構築され、
それだけではなく、「そのとき登場人物が何を思い考えたか」が
当時の世相と風潮を見事に反映させて、生き生きと描き出される。

昭和初期を舞台にしつつ、なぜ「生き生き」と表現し得るか。
2010年代の日本とは別の時代や国を物語として描くとき、
簡単なのは、現代日本人の感性と言葉で書いてしまうことだ。
無論、そんな手抜きの創作は、リアリティの破綻をもたらす。

その時代、その国の在り方を、如何にして現代日本人が描くか。
ただ資料を追うだけ、年号を暗記するだけの歴史のお勉強では、
優秀な解説文なら書けても、リアルな物語は決して創り得ない。
資料の隙間に隠された人間性の真実を見出さなければならない。

大正年間や昭和初期の日本、東京の情勢や文化、風物について、
私は少しも詳しくない。時代考証云々なんて、とてもじゃない。
けれども、資料的根拠に基づいて書かれるからこその盤石ぶりを、
圧倒的な厚みを持つ本作の世界観から感じ取ることができる。

登場人物のひとりひとりが、人生を持って、存在している。

蒼太郎はパイロットに憧れて海軍学校に入学するも、結核を発症。
療養先とな…続きを読む

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