都会が苦手な父がOKしてくれたら、一緒に上野動物園に行きたいと思った
- ★★★ Excellent!!!
「家族」がテーマのオムニバス短編集、と銘打たれてはいるが、
その実、著者が最も追求したいテーマは「父親」なのではないか。
「父親」は曇天的な存在として描かれているように、私は感じた。
著者によるこの短編集への評価が高くないことは知っている。
取材ができず、話の骨格が曖昧なまま執筆したため、らしい。
とはいえ、「読むに値しない」ほどの低水準では決してない。
著者の筆力の高さは周知の通りで、本作も非常に端正である。
著者の作品群の特徴は「テーマ性の強さ」であるように思う。
例えば長編作品なら、ざっくり大雑把なまとめ方をしてしまうと、
『彼女が好きなものはホモであって僕ではない』は「思春期の恋と性的マイノリティへの理解」であり、
『僕とぼくと星空の秘密基地』は「家庭問題と小学生の少年の成長」と言えるかと思う。
『カノホモ』や『僕ぼく』、短編『小笠原先輩』の読者なら、
計算された軽妙な語り口の奥に強烈なテーマが仕組まれた、
浅原ナオトならではの作風が身に染みておわかりだろう。
価値観をガツンと殴られるような読後感を得たはずだ。
本作はその点、テーマへの答えに「迷い」の余地が残されて、
その迷いは、本作に登場する父親たちの姿に投影されている。
『カノホモ』も『僕ぼく』も裏のテーマに「父親」があると
何となく思ったのだが、本作ではそれをダイレクトに感じた。
「家族の中で父親はどうあるべきか」とは普遍的なテーマで、
色んなあり方を思い描いて小説に表現することは有意義だ。
本作に登場する父親たちは「曇り空」で、何だか格好悪くて、
ただ、そんな姿こそが現代日本の家族らしさなのかとも思う。
先に上がったレビューにも「アライグマ」への評価があるが、
私も「アライグマ」が一番好きで、最も著者らしいと感じた。
『僕ぼく』とも通じるカタルシスがまっすぐに刺さってくる。
少年時代の感性をテーマにぶつけるときの浅原ナオトは強い。
……と。
勝手なことを書き殴ったけれど、これ、レビューなんだろうか。
全編きちんと面白かったと、改めてここに書かせてもらいます。
浅原さん、悪い子ぶること多いけど本当はめちゃマジメだなと、
『曇り空のZOO』全編にあふれる誠実さから感じ取りました。