都会が苦手な父がOKしてくれたら、一緒に上野動物園に行きたいと思った

「家族」がテーマのオムニバス短編集、と銘打たれてはいるが、
その実、著者が最も追求したいテーマは「父親」なのではないか。
「父親」は曇天的な存在として描かれているように、私は感じた。

著者によるこの短編集への評価が高くないことは知っている。
取材ができず、話の骨格が曖昧なまま執筆したため、らしい。
とはいえ、「読むに値しない」ほどの低水準では決してない。
著者の筆力の高さは周知の通りで、本作も非常に端正である。

著者の作品群の特徴は「テーマ性の強さ」であるように思う。
例えば長編作品なら、ざっくり大雑把なまとめ方をしてしまうと、
『彼女が好きなものはホモであって僕ではない』は「思春期の恋と性的マイノリティへの理解」であり、
『僕とぼくと星空の秘密基地』は「家庭問題と小学生の少年の成長」と言えるかと思う。

『カノホモ』や『僕ぼく』、短編『小笠原先輩』の読者なら、
計算された軽妙な語り口の奥に強烈なテーマが仕組まれた、
浅原ナオトならではの作風が身に染みておわかりだろう。
価値観をガツンと殴られるような読後感を得たはずだ。

本作はその点、テーマへの答えに「迷い」の余地が残されて、
その迷いは、本作に登場する父親たちの姿に投影されている。
『カノホモ』も『僕ぼく』も裏のテーマに「父親」があると
何となく思ったのだが、本作ではそれをダイレクトに感じた。

「家族の中で父親はどうあるべきか」とは普遍的なテーマで、
色んなあり方を思い描いて小説に表現することは有意義だ。
本作に登場する父親たちは「曇り空」で、何だか格好悪くて、
ただ、そんな姿こそが現代日本の家族らしさなのかとも思う。

先に上がったレビューにも「アライグマ」への評価があるが、
私も「アライグマ」が一番好きで、最も著者らしいと感じた。
『僕ぼく』とも通じるカタルシスがまっすぐに刺さってくる。
少年時代の感性をテーマにぶつけるときの浅原ナオトは強い。

……と。

勝手なことを書き殴ったけれど、これ、レビューなんだろうか。
全編きちんと面白かったと、改めてここに書かせてもらいます。
浅原さん、悪い子ぶること多いけど本当はめちゃマジメだなと、
『曇り空のZOO』全編にあふれる誠実さから感じ取りました。

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