タイトルが『曇り空のzoo』であるように、どれもちょっと悲しく苦しい話。未来は晴れるのかもしれないけど今は曇っている。私もぶっ刺さる話がありました……親子関係・人間関係に悩む人々の描写がリアル。
映像が脳内に浮かぶ、空気感が伝わってくる。見事な表現力。登場人物たちの表情が目に見えるよう。
そして、なんというか、作者の優しい視点に心が癒される。これは作者である「浅原ナオト」さまの作風なんでしょうか、他の作品を読んでも感じました。登場人物に対してものすごく優しい。苦しむ子供にも悩む大人に対しても、応援する気持ちが感じられる。
短編集なので読みやすいのもグッド。文芸小説としてものすごく完成度が高く、自信をもっておすすできる作品です。
作者である浅原ナオト氏の、人間というものに対する愛情に打たれる、そういう作品集となりました。私にとっての、個人的な読了後の感想です。日々、生活や仕事、様々なトラブル、そういったものに追われて私たちは生きている訳ですが、一体どうするとこの表現の主題、というかイメージが生まれてくるのか?「カノホモ」読了後も同じことを考えましたが、謎は深まる一方のようです。ナオト氏って、教師なのかなあ?或いは聖職者かも知れない?そんなことをちょっと考えたりしました。
多くのレビュワーの方が述べられていますが、「となりのあらいぐま」非常に良かったです。「カノホモ」の終わりの方を読んでいる時、思わず半泣きになったものですが、「となりのあらいぐま」の時は、オッサン一人、人知れずメソメソ泣いてしまったことを告白します。もっと正確に言うと、泣きたくなる、それもかなり強く泣きたくなる、そういう作品です。すごい。
「にんげんっていいな」については、最初の一文から心を抉られて苦しいくらいでした。個人的な話ですが一人っ子の娘に知的障害があり、冒頭の一文を読んだ時は、衝撃で胸を掴みました。(いや、悪い意味では全然ないです、これはホントです。冒頭がこの一文でなければ、多分こんなに強くは引き込まれていないです。作家のハシクレとして言います、優れた表現です)
そういうふうに自分のことを思うことが、うちの子にもあるんだろうな、と、これまで考えても見なかった、だけど考えて見れば当たり前のことに、今更ながら気付いたのです。なので、この物語は私にとって、単なる創作物:フィクションであることを越え、うちの子の、冒険の物語となりました。
「りこんしたら、ぼくは、おかあさんといっしょがいいです」
泣きました。しかし、おとうさん、じゃないのは人物設定上やむを得ないですが……。
最後に、「獅子の仔、仔獅子」での、怜央くんが「温かいスープでも飲んでいるかのように、ちびちびとオレンジジュースを飲む」シーン、可愛かったです、笑いました。
「家族」がテーマのオムニバス短編集、と銘打たれてはいるが、
その実、著者が最も追求したいテーマは「父親」なのではないか。
「父親」は曇天的な存在として描かれているように、私は感じた。
著者によるこの短編集への評価が高くないことは知っている。
取材ができず、話の骨格が曖昧なまま執筆したため、らしい。
とはいえ、「読むに値しない」ほどの低水準では決してない。
著者の筆力の高さは周知の通りで、本作も非常に端正である。
著者の作品群の特徴は「テーマ性の強さ」であるように思う。
例えば長編作品なら、ざっくり大雑把なまとめ方をしてしまうと、
『彼女が好きなものはホモであって僕ではない』は「思春期の恋と性的マイノリティへの理解」であり、
『僕とぼくと星空の秘密基地』は「家庭問題と小学生の少年の成長」と言えるかと思う。
『カノホモ』や『僕ぼく』、短編『小笠原先輩』の読者なら、
計算された軽妙な語り口の奥に強烈なテーマが仕組まれた、
浅原ナオトならではの作風が身に染みておわかりだろう。
価値観をガツンと殴られるような読後感を得たはずだ。
本作はその点、テーマへの答えに「迷い」の余地が残されて、
その迷いは、本作に登場する父親たちの姿に投影されている。
『カノホモ』も『僕ぼく』も裏のテーマに「父親」があると
何となく思ったのだが、本作ではそれをダイレクトに感じた。
「家族の中で父親はどうあるべきか」とは普遍的なテーマで、
色んなあり方を思い描いて小説に表現することは有意義だ。
本作に登場する父親たちは「曇り空」で、何だか格好悪くて、
ただ、そんな姿こそが現代日本の家族らしさなのかとも思う。
先に上がったレビューにも「アライグマ」への評価があるが、
私も「アライグマ」が一番好きで、最も著者らしいと感じた。
『僕ぼく』とも通じるカタルシスがまっすぐに刺さってくる。
少年時代の感性をテーマにぶつけるときの浅原ナオトは強い。
……と。
勝手なことを書き殴ったけれど、これ、レビューなんだろうか。
全編きちんと面白かったと、改めてここに書かせてもらいます。
浅原さん、悪い子ぶること多いけど本当はめちゃマジメだなと、
『曇り空のZOO』全編にあふれる誠実さから感じ取りました。
思わず命令形で書いてしまいましたが、本当にたくさんの人に読んでもらいたい、ハイクオリティな短編集です。
『曇り空のZOO』というタイトルの通り、心の中が曇っている人たちにまつわる5つのお話。全て動物園が舞台となっています。
登場人物は、何かしら悩みや不安を抱えています。そのどれもが、簡単には解決しないものばかり。
それでも、曇り空がいつか晴れるように、心の中もいつか晴れることを信じて、彼ら、彼女らは強く生きるのです。
全体的に、ずっと読んでいたくなるような、整った文章でした。
登場人物の心情が過不足なく表現されていて、自分が経験したことのないような場面でも、その想いや葛藤、感情が伝わってきます。
舞台が動物園である理由ってなんだろう。あらすじを読んだときから疑問に思っていましたが、5話目を読んで、なるほど……と思いました。
私は2話目の『となりのアライグマ』が好きです。
山崎くんが手を洗う本当の理由を知ったとき、思わず涙がこぼれました。
そういえば5話目も泣きましたね。
いや、1話目のお父さんもカッコよかったし、3話目の少年の決意も素晴らしかった。4話目は頑張れメガネザル!頑張れ!あー、コースケいい子かよ!?ってなりましたね。
とまあ、こんな風に、甲乙つけがたい高品質な短編が5つも読める贅沢な作品になっております。
ぜひ読んでみてください。