曇り空のZOO

作者 浅原ナオト

18

6人が評価しました

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★★★ Excellent!!!

――

「家族」がテーマのオムニバス短編集、と銘打たれてはいるが、
その実、著者が最も追求したいテーマは「父親」なのではないか。
「父親」は曇天的な存在として描かれているように、私は感じた。

著者によるこの短編集への評価が高くないことは知っている。
取材ができず、話の骨格が曖昧なまま執筆したため、らしい。
とはいえ、「読むに値しない」ほどの低水準では決してない。
著者の筆力の高さは周知の通りで、本作も非常に端正である。

著者の作品群の特徴は「テーマ性の強さ」であるように思う。
例えば長編作品なら、ざっくり大雑把なまとめ方をしてしまうと、
『彼女が好きなものはホモであって僕ではない』は「思春期の恋と性的マイノリティへの理解」であり、
『僕とぼくと星空の秘密基地』は「家庭問題と小学生の少年の成長」と言えるかと思う。

『カノホモ』や『僕ぼく』、短編『小笠原先輩』の読者なら、
計算された軽妙な語り口の奥に強烈なテーマが仕組まれた、
浅原ナオトならではの作風が身に染みておわかりだろう。
価値観をガツンと殴られるような読後感を得たはずだ。

本作はその点、テーマへの答えに「迷い」の余地が残されて、
その迷いは、本作に登場する父親たちの姿に投影されている。
『カノホモ』も『僕ぼく』も裏のテーマに「父親」があると
何となく思ったのだが、本作ではそれをダイレクトに感じた。

「家族の中で父親はどうあるべきか」とは普遍的なテーマで、
色んなあり方を思い描いて小説に表現することは有意義だ。
本作に登場する父親たちは「曇り空」で、何だか格好悪くて、
ただ、そんな姿こそが現代日本の家族らしさなのかとも思う。

先に上がったレビューにも「アライグマ」への評価があるが、
私も「アライグマ」が一番好きで、最も著者らしいと感じた。
『僕ぼく』とも通じるカタルシスがまっすぐに刺さってくる。
少年時代の感性をテ…続きを読む

さんがに★で称えました

★★★ Excellent!!!

――

思わず命令形で書いてしまいましたが、本当にたくさんの人に読んでもらいたい、ハイクオリティな短編集です。

『曇り空のZOO』というタイトルの通り、心の中が曇っている人たちにまつわる5つのお話。全て動物園が舞台となっています。

登場人物は、何かしら悩みや不安を抱えています。そのどれもが、簡単には解決しないものばかり。

それでも、曇り空がいつか晴れるように、心の中もいつか晴れることを信じて、彼ら、彼女らは強く生きるのです。

全体的に、ずっと読んでいたくなるような、整った文章でした。

登場人物の心情が過不足なく表現されていて、自分が経験したことのないような場面でも、その想いや葛藤、感情が伝わってきます。

舞台が動物園である理由ってなんだろう。あらすじを読んだときから疑問に思っていましたが、5話目を読んで、なるほど……と思いました。

私は2話目の『となりのアライグマ』が好きです。
山崎くんが手を洗う本当の理由を知ったとき、思わず涙がこぼれました。

そういえば5話目も泣きましたね。
いや、1話目のお父さんもカッコよかったし、3話目の少年の決意も素晴らしかった。4話目は頑張れメガネザル!頑張れ!あー、コースケいい子かよ!?ってなりましたね。

とまあ、こんな風に、甲乙つけがたい高品質な短編が5つも読める贅沢な作品になっております。
ぜひ読んでみてください。

★★★ Excellent!!!

――

短いお話の中に登場する人物達に過去と現在が存在しています。彼らには内臓があって、呼吸をしていて、日々いろんなことを感じて生きていることを信じられる、濃密な短編集です。

様々な事情を抱えて動物園に訪れた人々の人生の一部を読んでいることに満足感があります。一話一話に こういう密度を持ったものが「短編集」なのだなと感動しました。
個人的に特に好きなのはアライグマのお話です。
リアルタイムで更新を追っていたとき最後に「ニンゲン」がテーマのお話が更新されたときは唸りました。ラストはそこに行き着くのかと。