追記5 火をつける道具

 別の小説で直面した問題だが、マリーの世界にも絡むかもしれない。


■余談16

 異世界ファンタジーだが、魔法も、便利な魔道具も存在しない世界。

 祭に出かけた主人公の少女が、無人状態の家に客と一緒に戻り、「客にお茶を出すため、お湯を沸かす」と書こうとした際、疑問に襲われた。


 ……この世界、湯を沸かすための火はどうしてるんだろう。

(水は多分、外出前に町の中の共同の水場に汲みに行って、汲み置きが家にある)


 主人公の同居人が(人間形態にもなれる)竜のため、周囲に他人がいないアウトドアならば「竜に火を吐いてもらう」という手段が使えなくもないのだが、それは絶対に一般的な方法ではない。今は別行動中だし。


 この場面の束縛条件が二つある。

 直前まで無人なので、「一度つけた火を家でキープしておく」のが恐らく難しいこと(火事の心配がない保管手段があるなら別)。

 客を待たせずにお茶を出すため、着火に長時間かかってはいけないこと。


 着火方法として、私が思いついたのは三つ。

(1) 両手で木の棒を挟んで回し、摩擦まさつ熱で火をおこす。

  縄文時代とかの方法。弓の弦などの道具を使って棒を回転させる発展形もある。

(2) 火打石と火打金をぶつけて、火花を散らして火をおこす。

  銭形平次のおかみさんが持っている。

(3) マッチ。リンの燃えやすい性質を利用。

  発明当初の黄燐おうりんマッチは、何にこすりつけても摩擦だけで火がつくので危険。

  赤燐せきりんマッチは、マッチ棒の頭と箱の横に塗ってある別々の薬品間の化学反応。


 主人公が棒をくるくる回すイメージが湧かないので、多分(2)か(3)だと思う。

 (3)の場合。

 この世界では既にリンという元素が発見されている、ということだよね?

 そして、田舎町の庶民である主人公が普通に買えるくらい、マッチが大量生産されて安価に出回っているってことだよね? この世界の工業レベル的に、それはアリなのか?

 では、(2)の場合。

 ……火打石と火打金で火をおこすのに要する時間を知らないので、客を待たせずにお茶を出せるかどうか、わからないよ!


 Wikipediaのマッチや火打石の項を熟読し(黄燐マッチの発明が1830年)、数日悩んだが、結局「お湯を沸かす」とだけ書き、着火方法には触れずに逃げた。


 ところで、この小説は、現在は閉鎖した自サイト上で連載していた連作短篇。読者の方が指定した三つの言葉を使って書く、という企画の一環である。

 「お湯を沸かす」記述をサイトに掲載したあとで、気がついた。

 ……同シリーズの前の話で、三つの言葉の中に「マッチ」が入っていたため、既に物語に登場させてたよ!

 というわけで、この世界にマッチが存在することは確定。

 但し、遠方の別の国の都市住人が使用しただけなので、主人公の自宅近辺でも普及しているか否かは謎である。


 あと、これを書きながら突然思い出したが、戦国時代頃に、火縄銃用に火種を携帯して持ち歩く手段があった気がする。ネットで調べると「胴火どうび」と、忍者の「打竹うちたけ」なる道具が出てきた。

 外から帰宅した少女が火種を携帯していた、という可能性もあるかもしれない。火種を持って祭に遊びに行くのか、という疑問は生じるが。



 マリーの世界も、ファンタジー的な生物はいてもよいが、人間が使える魔法や、便利な魔道具は存在しない予定なので、間違いなく同じ問題に直面する。

 「追記」の余談6-2に書いたように「原子も分子も知らない科学レベル」ならば、この世界でマッチが大量生産されて普及しているとは考えにくい。恐らく、(1)か(2)の方法で火をおこし、一度つけた火をキープする生活をしているのではないか。

 「一家に一人、火の精霊さんとお友達」という設定ならば、気にしなくてよいのだろうけれど。


 ……どこかで火おこし体験して、所要時間と苦労を、身をもって味わってみたい。


■余談17

 異世界ファンタジーで、「超大陸が分裂して移動し、現在の世界の姿になった」という〈大陸移動説〉を使おうと考え、没にしたことがある。


 まず、現在の世界を描写。狭い海峡と、二つの大陸。両大陸には複数の国があり、海峡を挟んで戦争しているが、かつては全てが一つの国だった。

 時代を約500年遡り、一国だった時代。実は、当時は大陸も一つだった。分裂した大陸は、現在も遠ざかりつつあるのだ!


 ……閃いたときには名案だと思ったのだが。

 500年でいったいどれだけ動くんだよ! (大陸プレートの移動は年間数cm)

 と考え直し、没にした。


 さて最近、下記の本を読んだ。


佐野貴司

『地球を突き動かす超巨大火山 新しい「地球学」入門』

講談社ブルーバックス 2015年


 この本の「大陸を分裂させる超巨大火山」の章を、超大雑把に要約すると。


・大陸が分裂するところでは、必ず下からマントル物質が上昇してきて、大量のマグマを生成し、超巨大火山が噴火する。

・現在、アフリカとアラビア半島が分裂中で、紅海両岸で火山活動。


 つまり、例の二つの大陸が仮に分裂中ならば、その割れ目は大火山帯で、海峡を挟んで戦争なんかしている場合ではない、ということになる……。

 没にしておいて良かった。三話まで書いて投げた小説(「追記3」余談14、「動く鎧」のアレ)だから、過去の世界など登場してもいないけど。


■余談18

 マリーの世界とは別の、書きたいと思っている異世界ファンタジーで、「お宝がある洞窟の入口が埋まる」必要がある。

 近くで火山が噴火した影響(溶岩が流れて塞がるのではなく、噴石が飛んできた・地震で崩れたなど)はどうだろう? と思っていたとき、面白そうな本を見つけたので読んでみた。


新田次郎『火の島』 新潮文庫 昭和51年


 表題作は、元・気象庁の技術者である著者による、実話に基づいた迫真の小説。昭和40年、伊豆諸島の火山島・鳥島とりしまが噴火の危機にあった際、気象庁の観測所員たちが島を脱出するまでを描く。


 ……入口が噴火で埋まったという事実を、過去の出来事として伝え聞くならばともかく。

 同時代で、埋まる前後を知っているくらい近くにいる人物ならば、火山性微動とか硫黄の臭いとか、噴火の前兆現象を体験していそうである。これを、付け焼刃で描写するのは無理だ……。

 入口が埋まりさえすればいいので、原因は大雨による土砂崩れでも構わないのだが、かといって私が「大雨による土砂崩れ」を描写できるわけでもない。

 噴火にせよ大雨にせよ人工的な爆発にせよ、埋め方の勉強が必要である。


■余談19

 私が書いた異世界ファンタジーの登場人物のイラストを描いていただいたことがあり、うち一名が眼鏡をかけていた。ちなみに、文章中に眼鏡は出てこない。

 さて、この世界に眼鏡は存在し得るだろうか。


 Wikipediaで歴史を調べると、眼鏡の発明自体は13世紀頃と、結構古い。現在の、弦を耳にかける形が発明されたのは1727年だそうだが。

 疑問は、眼鏡はどれくらい普及していたのか、庶民の手に入る値段なのか、ということだ。くだんのキャラ、決して裕福ではないので。

(森薫『エマ』は19世紀イギリスが舞台だが、メイドのエマにとって眼鏡が高価である記述があったと思う)

 ……しばらく悩んだ結果。


 物語の主要舞台が周囲にまともに店もない山奥なので、仮に眼鏡が壊れた場合、すぐには修理も代替品購入もできない。彼が戦力外になるのは、ストーリー的に困る。従って、彼の視力には問題がなく、眼鏡もかけていない。


 という、金銭面は全く解決していない結論に到達した。

 この世界に眼鏡は存在していてもいいが、所有しているのは王侯貴族や高位聖職者や大商人くらいだろう。とは、何となく思う。

 マリーの世界も恐らく同じで、領主は遠方から眼鏡を取り寄せてもいいけれど、マリーや一介の村人では買えないに違いない。



 私以外には全くどうでもいい話だが、「眼鏡」と「洞窟の入口」、及び「ダジャレ」(「追記3」余談13)は、実は同じ世界観だったりする。

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