一行で書くのを諦めた異世界ファンタジー
卯月
本文
今を遡ること数年前。
とあるネタを思いついた私は、異世界ファンタジー小説を書こうと考え、最初の一文を、脳裏に思い浮かべた。
マリーの村から、領主さまの館まで、歩いて一時間。
そこで、はたと疑問が生じた。
……ここ、異世界だけど、「時間」という単位はあるのか?
これは、単位をジカンと呼ぶかhourと呼ぶか、それとも異世界における独自名称をつけるか、という話ではなく、「この世界に1日を24等分する考え方は存在するか」という問題である。
……いや、その前に。「日」という単位は、あるよね?
私は漠然とではあるが、この異世界を、太陽が東から昇って南を通って西に沈み、春夏秋冬の季節が巡る、要するに「地球のような丸い惑星の北半球」としてイメージしていた。
昼夜の別、及び四季が存在するのであるから、恐らくこの惑星は、太陽のような恒星の周囲を、自転しながら公転しているのであろう。
従って、惑星が自転で1周する周期=「日」、惑星が恒星の周りを1周する周期=「年」に対応する単位は、名称が何であれ存在する筈である。
但し、「年」が「365日」である保証はない。というか、地球の並行世界などでない限り、任意の惑星が「1年=365日」の比率となる公転周期・自転周期を持っている可能性は低いと思う。
さて、問題は「1日を24等分する考え方は存在するか」である。
ここで、地球に24時間制が存在する理由について考えてみる。しかし、24時間制は元々、12時間×2(昼と夜)であろうと推測する。
ではなぜ地球には、12を1セットとする考え方、12進法が発生したのか。
それは、「年」の間に12回、月が満ち欠けするからではないのか?
従って、「この異世界に、月が存在するか」を考える必要がある。
太陽系の惑星において、衛星の存在は珍しくはない。地球と同じ岩石惑星である火星には、2つ。木星以遠のガス惑星(地球のような生命体は住めないと思うが)には、十数個~数十個存在する。太陽系外の惑星については知らない。
衛星の存在は、珍しくはない。しかし地球のように衛星が1つであることは、珍しい?
私は悩んだ。
惑星上に生命が誕生し、知的生命体まで進化する過程において、「衛星が存在すること」「衛星が1つであること」は必須条件なのか?
地球は、太陽から適切な距離に位置することで、暑すぎず寒すぎず生命が暮らし易い環境を維持している。太陽の寿命が尽きたのちも地球上の生命が存続することは、難しいだろう。
従って、惑星上の生命は、恒星の寿命の範囲内で、誕生し、ある程度のスピードで進化しないといけない。進化途上で大絶滅して初期状態に戻るのも困る。
下記、うろ覚えの話でソースも示せないが、
(1) 月の引力による潮汐力が海を揺らすことが、海中での生命の誕生、陸上への進出を促した。
(2) 月の引力が地球の地軸を安定化させたことで、生命が誕生・進化し易い環境が維持された。
と、聞いたことがある。
生命の誕生・進化には衛星が存在したほうが有利と思われるが、衛星が1つであることが重要なのか否かは、結局よくわからない。
また、異世界の惑星に衛星が1つ存在すると仮定しても。
この惑星の「年」(恐らく≠365日)の間に、衛星が12回満ち欠けする確率は、相当低いに違いない。この世界で、衛星を使って12進法の起源を説明するのは、難しそうである。
そこで閃く。
――1日を24等分すること自体を、諦めればいいんだ!
じゃあ、10で割ろう!
と考えて、再び、はたと疑問が生じた。
地球で10進法が発生した理由は、人類の指が両手で10本だからだろう。
……マリーの指は、本当に10本だろうか?
この時点で最早、自分が書きたい物が異世界ファンタジーなのか何なのかわからなくなり。
わずか一行にして私は、この物語の執筆を断念したのであった。
【教訓】
考え過ぎて書けなくなるのは本末転倒である。
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