追記4 中二の黒歴史

 今回も、マリーの世界の話ではない。

 「余談」の余談1で書いた『北中』の異世界ファンタジー(途中で挫折)が、「登場人物が信じている世界の形と、実際の形が異なる」設定だったこと、及び黒歴史を思い出したので、語る。


■余談15

 中学二年のとき、下記のような物語を書こうと考えた。


 かつて夜には月が存在せず、真っ暗闇で、魔物が跳梁跋扈ちょうりょうばっこしていた。

 そこに一人の勇者が現れ、魔物の王を封印すると、月を創って夜空に掲げ、王国を開いた――という伝説を持つ世界。

 約1000年後。封印が解け復活した魔王によって、真っ先に王家が滅ぼされる。

 唯一生き残った王女が、魔王を倒すため、伝説の勇者が遺した剣を探す旅に出る。


 初めて書く異世界ファンタジーで、王国の地図、暦、通貨単位なども設定し、非常に気合を入れていた。

 書き始めてすぐにぶち当たった問題は、その暦が原因だった。


■余談15-1

 その世界の暦は月の満ち欠けを基準としており、1月=30日、1年=12月=360日。

 伝説の勇者が最初に掲げた月は満月であり、その夜が明けて朝日が射したときを王国暦の始まりとする。従って、毎月30日の夜が満月である。すると、新月は15日。


 ……三日月が3日じゃない。18日だ!


 月になぞらえて物事を形容することが多い世界なのに、「三日月型の剣」などの言葉が使えない。

 困った中二の私は、満月フル半月ハーフ三日月クレセント新月ニューとルビを振り、「3日という意味の言葉ではない」ことにして、解決策とした。

 今見ると、何の解決にもなっていないような気がしないでもない。


■余談15-2

 王国の地図の東から南にかけては山脈、西と北は海である。山脈には雄峰と雌峰、二つの特徴的な山がある。

 月や太陽は東から山を越えて王国に現れ、海側を通って西に沈む。

 ……海はなので、高校生になってから「『北中』じゃん! ここ南半球じゃん!」と気付いた次第である。


■余談15-3

 山脈の向こう側や、海上の島にも人は住んでいるが、王国民は基本的に国外を知らない。

 王女は剣の手がかりを求めてあちこち旅するうち、島を拠点とする人々と知り合う。彼らから、「西の海の遠方に時々姿は見えるが、そこまで行ってみると存在しない幻の島」の話を聞く。

 剣を入手後、魔王の城を探す王女が行き着いたのが、西海の果てに実在した「幻の島」(注:蜃気楼で見えていた、という設定)。

 夜間に「幻の島」で魔王と戦って倒したのち、朝が来て、遠方に高い二つの山が見える。しかし、見慣れているシルエットとは左右が逆。

 実はこの世界は球体で(みな平面だと思っていた)、王女は西の海に漕ぎ出して、王国が存在する大陸の東岸に上陸していたのだ!


 という構想のもとに、中二の私は執筆を始め。

 王女が旅を続け、私の高校生活も終わろうという頃、気付いてしまったのだ。


 ……「この惑星、小っちゃすぎるんじゃないか」問題に。


 明確に地図を描いたのは王国民が認識している「世界」の範囲だけだが、私の脳内では、その外の領域も大雑把に設定されている。

 物語内で、何月何日に国のどこにいる、と明記しており、徒歩移動に要した日数と王国地図、地図外の広さを考え合わせると。

(脳内で地球儀をイメージ。この王国は赤道直下ではなく、南半球のどこか)


 ……同じ緯度の円上を東西方向に一周する距離、日本列島の長さの4倍くらいしかないんじゃなかろうか。

 地球サイズの惑星だったら、思いっきり南極圏だよね……。


 百歩譲って、ものすごく直径の小さい惑星だったとしても。

 その場合、惑星表面のカーブが、めちゃくちゃキツくなるよね……?

 いろんなものが、すぐ地平線や水平線の彼方に消えちゃうよね?

 蜃気楼で浮かび上がって見える「幻の島」も、かなり近距離でないと無理だし。

 非常識なレベルの高山でない限り、遠くから山脈のシルエット、見えないよね?


 ――ダメじゃん!



 ……というのが、「いい加減な設定で書き始めると、途中で破綻する」という実例である。

 もっと早く気付こうよ、高校生の私……。

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