追記12 韻文(挫折)
今回は、マリーの世界の話ではない。
一度挫折した小説に手をつけてやっぱり挫折した文章の存在を思い出したので、晒したくなった。
■追記26
宮沢賢治再読祭をしていた、ある日の私。賢治には、『
前者は、中国を思わせる舞台で、砂漠で三十年戦ったソンバーユー将軍が首都に帰還する話。地の文も台詞も、全て七音と五音のリズムで書かれている。
後者は、宝石学の専門家が、依頼された鉱物を探しに行く話。地の文は七音と五音だが、台詞は散文だ。
……カッコいい。真似したい!
突如「自分も韻文で物語を書きたい病」に取り憑かれるも、一から話を考えるのは大変だ。そこで浮かんだのが、昔、三話まで書いて投げた「動く鎧」の小説(「追記3」余談14)。
小説として続けるのは諦めたけれども、あらすじだけなら書けるかもしれない。台詞を七五に揃えるのはキツいが、『楢ノ木大学士』方式ならいける!
で、衝動的にチャレンジしたのが下記(pixivより転載)。戦争当事国の人名(ファーストネーム)はドイツとロシアだが、苗字や地名には全然拘っていない。
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『ソルティアのものがたり』
一 古代魔法王国の滅亡の経緯
昔、昔のその昔、北と南の大陸と、それを取り巻く島々は、全て一つの国だった。
王の下には七人の、魔法の
古代ソルティア王国と、後の世に住む者は呼ぶ。
偉大な魔法王国は、たった一人の魔術師の、げに恐ろしき所業にて、一夜のうちに滅亡す。
叡智の都は崩れ落ち、魔術師たちも民草も、死屍累々の悲惨さよ。
ほんの僅かな者のみが、
今も魔法は世にあるが、かつての粋は失われ、為し得る
ソルティアの地の人々は、彼の
その魔術師の名は――パラウ!
二 ハイデシア帝国とウィシュラント王国の戦い
幾百年の時が過ぎ、北ソルティアの西半分を、統べる帝国ハイデシア、建国およそ五百年。北と南の大陸で、最も古き大国は、「我こそ古代ソルティアの、後継者なり」と自称して、虎視眈々と帝国の、版図を拡げる機を狙う。
ネミア海峡あいだに挟み、彼の帝国と対峙する、南ソルティア大陸で、一の大国ウィシュラント。建国およそ百年の、国の齢の大半を、北との戦に費やすが、双方ともに決め手なく、海峡沿いに睨み合う。
しかし二国の均衡は、前触れもなく破られる。
北の帝国第二の皇子、その名はミハイル・ハイデシア、率いる軍の猛攻で、防衛線は総崩れ。そのまま王都シルヴァーナ、ハイデシア軍に包囲され、城も劫火に燃え落ちる。王も后も王弟も、戦死あるいは捕らえられ、首落とされて絶命す。王の娘が只一人、生きるも死ぬも定かに非ず、城の炎に呑まれたか。
ああ麗しのウィシュラント、かくて歴史に終止符を打つ。
水と緑に抱かれて、実り豊かなウィシュラント、今は異国の兵どもが、我が物顔で闊歩する。
支配に喘ぐ人々が、心密かに願うのは、彼の姫君が落ち延びて、いつか我らが旗頭、にっくき敵を撃ち滅ぼして、国を再び興さんと。
――カタリーナ姫よ、どうか御無事で!
三 遺跡破りとはぐれ魔術師の邂逅
国が滅びて六年後、取り締まる側は変われども、旧ウィシュラントが仕事場の、盗賊ギルドの生業は、今も昔も変わりゃせぬ。
ウィシュラント領の其処彼処、かつての魔法文明の、遺跡があるのは周知の事実。お宝見つけて持ち帰りゃ、一山当てて大儲け。しかし古代の遺跡には、今の魔法にゃ真似できぬ、骸骨兵や泥人形、動く鎧が番をする。多くの者が挑んだが、屍の山積み上げて、帰ってくるは一握り。
しかして謎の新顔が、彗星のごと現れて、次々遺跡を破っては、町でお宝売り払い、大金せしめ去っていく。大した腕だと認めはするが、ここは我らの縄張りだ、これじゃギルドの面目立たぬ。仲間にするか、さもなくは――。
一匹狼、サリス・バージィ。その凄腕の雷名が、裏社会のみ鳴り響く。
旧ウィシュラントの片隅に、古びたローブに樫の杖、町から町へ浮き草暮らし、一人のはぐれ魔術師ありて、名はアルベルト・ホーグなり。
手持ちの金がなくなれば、盗賊ギルドに雇われて、小金稼ぎの便利屋仕事。手元に金があるうちは、酒を飲んだり遊んだり、享楽的な毎日で、趣味は他人を茶化すこと。
そんな男に声をかけるは、覆面姿の謎の人物、遺跡破りの協力せよと、要は仕事の依頼人。
とある遺跡の封印が、強力過ぎて中に入れぬ。さては古代の魔術師の、名のある者の手によるか、たとえばそれはパラウなど。
「――パラウだと?」
顔色変えるアルベルト。魔術師なれば他人より、古代魔法の
「たとえば、の話だ。だが、実際にそうであっても、手を引く気はないな」
事も無げに言う依頼人。
「あんた、封印を解く自信はあるか?」
「――面白い」
全ソルティアが震え慄く、彼の伝説の魔術師を、毛ほども恐れぬ心臓に、興を覚えたアルベルト。その遺跡のみと但しはつくが、彼らの契約成立す。
遺跡破りのサリス・バージィ、はぐれ魔術師アルベルト、二人の旅がここに始まる。
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「ここに始まる」で力尽きたというね……。
最初から最後まで書き通した宮沢賢治、めちゃくちゃ凄いな!
私は趣味で短歌も詠むため、五七五七七に嵌まるように言葉を考えるのは慣れている。固有名詞以外なら、言い換える選択肢は、探せばそれなりに見つかるものだ。
しかし、最初からそのつもりで命名したわけではない人名・地名を七五に組み込むのは超難しい! ということを、心底実感したチャレンジであった。
この話。
小説で1回、散文あらすじで2回挫折しているため、これで挫折4回目である。
一行で書くのを諦めた異世界ファンタジー 卯月 @auduki
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