第3話 食へのコンプレックス

新規の食事処を開拓するのがとても上手で、本当に感謝していました。それだけでいればとても良い人だったのに、ある日「いつも私ばかり決めているので、たまにはあなたたちも働いて」ときます。このタイプは自己愛以外にも、結構いるのではないでしょうか。そして、こちらが提案した店は結局気に入らず、余計な手間だけかけた挙句最後は自分で決める、というところまでがテンプレではないでしょうか。


私達も最初は反省し、決めるのが楽しいのかと任せ過ぎた事を謝りました。更に私は自分のセレクトには自信がないので、都内に来た時に食べ歩きする事を趣味としている、私が信頼する友人のチョイスを使わせてもらいました。しかしとにかく通らない。こちらも一応時間をかけたり、友人に手間をかけさせたりしているわけです。しかもはっきりと「そこは嫌なので結局私の決める所にしろ」とは言わない。誘導して、自分好みの所を私達が決めたという形を作りたがる。責任を負いたくないからです。ちなみに店がハズレだからと言って責めるような人間は、私達の中には一人もいません。責めるような人とばかりこれまで付き合ってきたのか、それとも自分には一点のミスも許されないということなのか…。


とにかく、馬鹿馬鹿しいので「これまで私の意見が通った回数を調べたところ、0回でした。無駄なので最初から決めて」と連絡したところ、この件に関しての返信は途絶えました。言い返せない事は全て返信がありません。時間が経てばなかった事になるようです。

この頃もう付き合いも破綻しかけていたのですが、残りの食事は毎回自己愛が認めた中の最安値の店を使いました。そこも好きなので全然よかったんですがね。明らかに、口ごたえされた上にそれが数字に基づいた正論だったのでむくれたのでしょう。


海鮮の美味しい所に旅行した時は、自己愛が店構えで決めた店は正直普通だったのですが、雰囲気を褒めました。私達のセレクトは有名店ということもあり間違いない感じで舌鼓を打ちましたが、店を出て一言「こんなところに入ってる店にしてはマシだった」とのありがたい評価を頂戴しました。

ちなみに「こんなところ」とは市場でしたので、自己愛様に認めていただくには漁船に乗り込むしかなかったようです。今頃は気が利く誰かがマグロを一本釣りさせてくれていることでしょう!


困るのは、人の多い店内などで、食事に対する罵倒や汚言を叫ばれる事でした。上記の通り自己愛様はグルメ様なので、お呼びする時はそれなりに食通が決めた店にしていました。それでも森羅万象、自らの決定以外は完全にお気に召す事はほとんどありませんでしたが。

実際、年齢的に私や友人もチェーン店は飽きていたのでほぼ使っていませんでしたが、その日は条件が違いました。友人Aが私の家に泊まっていたのですが、用事もなくダラダラとしてしまい、何か外に出る口実が欲しい。しかしランチが遅く、正直空腹ではない。でも喋り足りない。これらを踏まえて、駅前で個室で広々座れそうなチェーンの居酒屋を予約し、時間に制約を作って家を出ました。食事は二の次。ビールと枝豆でもあればそれでもう少し話して、改札で見送ると。そこに自己愛様から連絡があり、ちょうど外に出ているから合流したいと。その頃は喜んで迎えました。この後生き恥地獄に嵌められるとも知らず…。


席に着くなり自己愛様は、こんな店!こんなチェーン店!貧乏学生の店!と罵り出しました。個室とは言え完全な密室ではないので、おそらく店員にも丸聞こえだったのですが、自己愛様は下賤の店でかく恥は恥とは思わないらしく、こんなもん食ってあたらないのか、食えたもんじゃないと叫んでいました。普段から太る事を極端に恐れているので、外食に出ると解った時はそれ以外の食事を抜いて飢餓状態で来ているのだと、この後判明しました。私に向かって「ここはあなたの大好きなお店なのね!」と勝手に決めつけ、そのネタが気に入ったようで後に人前で何度も「ほら、あなたの大好きな安いお店!」と繰り返しましたが、私が「虚言です」とバッサリいったので黙りました。自己愛の中の弱い個体で本当に助かりました。他にも人のSNSの食事画像に写っている皿の小さな店名から、チェーンだと判ると嬉々として見下しコメントをつけたり、「その人の家の食が貧しかった事が判るの大好き!」と狂喜して、キシシシシシシィ!と笑っていました。この時は「ダサくて弱い奴がいじめられてるの見るのも大好き!」と発狂していましたが、明らかに虐められたトラウマがありそうなので、記憶改竄で昔の自分と虐め加害者の立ち位置を入れ替えたのかな?と推測します。


居酒屋割り込みの話に戻すと、まだ被害は終わりません。

「思い出した!学生の頃、この店の他店舗でゲロ吐いたの!ゲロ!!ゲロ!!」

と幼稚園児のように無邪気に笑いながら繰り返します。「こんな店にいるとまたゲロ吐きそう!!」この辺りから「こいつ狂ってる」と思いました。

そして先日私があげたお土産の話題になりましたが、自己愛様が行きたかったその地に私如きが行って土産渡してきた事がお気に召さなかったのか、

「彼氏にやったら、あいつなんの味も解らない馬鹿舌だから味わいもしないで一気喰いして下痢してた!下痢!!下痢!!!!」

と、今度は下痢がお気に召したようで食の席で高らかに叫ばれました。素面ですよ。カロリー恐怖症なので男の餌にするんだろうなとは思いましたが、それは自由です。一応チョコがけチップスのとこのだったんですがね…思わぬ所で狂喜してもらえてよかったなー(棒読み)。

その後サービスで頂いたアイスを一口食べて「不味い!こんなゴミ食べられない!ラクトアイスはアイスクリームではなく〜油の塊で〜」というクソ講釈を垂れた後「ゴミ」と称したそれを友人Aに「食べる?」と聞いて「食うか!死ね!」と返されていました。日本一売れている氷菓子もゴミだそうです。


他にも「皆さんへ」と戴いたお土産が高いものだと見るや「あたしにって言った!言ったよね!?」と箱ごとバッグに詰めたり(腰巾着認定した人物が自分だけに持ってこなかった事も気に入らなかったよう)、同じ差し入れでもコンビニのロールケーキは演技めいた「ありがとうごないますぅ〜」という猫なで声で受け取った後「ゴミ持ってくんなっつーの。みんなで食べて。あたしいらない」と置き去るなど、その時はこんな人間が存在する事に驚くばかりで、なんと表したらいいかすぐに浮かびませんでしたが、「卑しい」「浅ましい」がしっくりきますね。


家へのこだわりとと同じく、幼少期にいっぱい食べられなかった事が原因なのかもしれません。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る