第12話 いよいよ終わりを決めた話3

自己愛と取り巻き二人きりの出展当日。

私と友人Bは、もう関係ないので各自宅で涼んでいましたが、友人Aは元々その現場に遊びに行く予定でした。これまでのやり取りを全て知っているので、もう自己愛と取り巻きには関わりたくないと避けていましたが、捕まってしまいました。

信じられないことですが、自己愛の方は、こちらに嫌われている自覚が全くありません。最後に全ての連絡をブロックされた時の言葉も「何が悪いのか解らない。原因を教えて」でした。それよりも、せっかく数を増やした下僕が逃げる事を嫌がりますので、何事もなかったかのように親しげに友人Aを引き込み座らせました。取り巻きが椅子を譲ります。もちろん王である自己愛は立ちません。友人Aは不機嫌なので、特に何も話さずにいたそうです。早く立ち去りたいわけですし。すると取り巻きが、用事に向かうとその場を離れました。すると自己愛が、

「なんで黙ってる。もっと楽しそうにしろ。取り巻きさんが困ってただろう」

と言ってきたそうです。

これは人物のすり替えで、本当に沈黙を怖れているのは自己愛自身です。全ての責任を外部に置きたいので、自分の感情を取り巻きのものとしました。この自己愛はおそらく、親が不機嫌な時に存在を無視されて育てられています。ですから自己愛の中で、無視は最大の拒絶であり「おまえを生育しない=生かさない」という事の現れです。これが他者にも効くと思い込んでいるので、自分が中心になれず不機嫌な時などは、スマホを弄り周囲に「無視しているぞ!」という態度を示します。そして周りから放置されると、全く関係ない話題の中に、突然スマホで見つけた自分関連の話題を叫びながら割り込んできます。


その割に、自分は何をしてもいいので机に突っ伏して黙っていたそうです。この時既に、私から預かった在庫が私の思惑通り全く捌けず、ぶすくれていたのでしょう。自分の美貌をもって、飛ぶように売り切れるはずだったものが全く無反応では仕方がありません。

あとは「直前まで私が一人で全てをギリギリまでやった。だから疲れている」というアピールです。SNSでも度々「全部一人でやっている!」と憤慨していたのですが、取り巻きは何をしていたのでしょうか?嬉々として手伝っているのではなかったのでしょうか。

どうやら自己愛の障害で「自分から頼む(頭を下げる)事が出来ない」というのがあるそうです。頼む=負け、なのだそうで、自己愛は一番従順な取り巻きを身近に残しておきながら、何一つ頼まなかったようです。実は取り巻きの方が能力が高そうだったので、それを認めたくなかったのもあるかもしれません。この後の打ち上げも、「取り巻きから連絡して来なかった」ということで取り巻きは知らず、来なかったようです。この後「本当に仲のいい人としかもう組まない」と何度も言っていましたが、自己愛の「仲のいい人」とは、ご機嫌を伺って何かすることはありますか?と聞いてきてくれる奴隷です。

結果的に自己愛が一人で手掛けた作品は、自己愛の熱量がそのまま反映されたものでした。


友人Aはこの相手がまともではない事を理解していたので、適当にその場を離れました。

この時の事を、自己愛が目上に置いている人に対し「Aさんが入ってきたから、取り巻きさんが追い出されたんです」と報告していたので、友人Aは近寄りたくなかったのに引き込まれた事を伝えました。私と友人A、友人Bの情報が連携している、という発想が無いようです。自己愛を信頼して、情報の共通化をはかってくれる友人がいなかったのでしょう。


しかし席を離れても友人Aはしばらく自己愛について回られ、挨拶をしに行った知人と軽い世間話をしようとしたところ、

「○様!Aの奴は○様にご挨拶したいしたいって、それは大騒ぎでして!」

と自己愛自身が大騒ぎしたりと、要らぬ恥をかかされたそうです。自己愛にとっては擦り寄りたい目上だったようですが、その割にその方の出展テーマを知らず頓珍漢な話をしたり、何を勘違いしたのかその方が今もお好きなものを、

「あんなものは私達も全員飽きています!」

と言い出したり。実際は飽きていたのは自己愛だけでした。周囲はもう関わりたくなくて話題を出さなかったのだと思います。


さて、私の思惑通り、屈辱と共に大量の在庫を抱えた自己愛は帰路をどうしたでしょう。帰路にも巻き込まれた友人Aから聞きました。友人Aいい加減逃げて、と思われるでしょうが、自己愛の方はこれまでと何も変わらない付き合いと思っているのでついてきてしまうのです。壊滅的な何かが起きても、一晩寝ると無かったことになるのです。

結論から言うと在庫は、まず半分が取り巻きの荷物に詰められました。この時自己愛は取り巻きに「ごめんね」と繰り返したそうで、友人Aはこれを「ちゃんと謝っていた」と言ったのですが、違います。

「本当は下僕(友人A)が運ぶべきなのに、大切な取り巻きさんに運ばせてごめんね」と、友人Aに対して皮肉を聞かせたのだと説明しました。本当に取り巻きに対して申し訳ないと思うのなら、自分が運ぶか、自腹で送ればいいのです。私達は一貫して、宅配を使うように言っていました。これに納得した友人Aは、遅れてきた怒りに苛まれていました。本当にこの友人を諦めて自己愛の生贄にしなくて良かった。ボロボロになるまで食い物にされたでしょう。当然、自己愛が引き受けた残りの在庫半分も、途中から友人Aが持たされて、私との待ち合わせ場所まで来ました。二人の姿を確認した時、もう自己愛に会うことはないだろうと思っていた私は「げっ」と言ったような気がします。


とりあえず、自己愛が取り巻きから預かった宅配代を受け取りました。私の所に返送する際は着払いしか指定出来なかったので、その分を現金で受け取る事になっていました。私から取り巻きへも着払いで送りました。

この時も自己愛は悔しそうに、

「取り巻きさんに着払いで送ったの!?いかにもあなたらしいっていうか…」

とボソボソ呟いていました。ケチと言いたかったのでしょう。自己愛の中では依然として「下僕がお願いをして自分から送ってくる」という正解が揺るぎません。違う現実に脳が対応できません。

特にお願いしていない、むしろお断りした物の往復送料二千円をサービスしろ、という理屈です。しかも言い出した自分はノータッチです。口を挟むと金を出す羽目になるので、宅配の話題の時は一切姿を見せませんでした。自分の短所を人の悪口として言い放つのは、投影という障害のようです。

この際、何故か取り巻きが着払いをうまく理解出来ず、往復分の送料を寄越していました。行きの分は受け取りの際に取り巻きが払っているはずなので、取り巻きは随分多く支払った事になるのですが、もうこの件に関わりたくないようで、説明を聞き入れません。困ってしまったのですが、この余剰分が後で役に立ちます。


ちょうどゲリラ豪雨の時期で、嫌な湿気と自己愛と共に、長居出来なそうな適当な店に入りました。

自己愛サヨナラ会のようなつもりだったので、自己愛がいる間は当然会話も盛り上がらず、さすがに望まれていない雰囲気を察したのか、どんよりと近づいてきた雨雲が豪雨を降らす前に、自己愛はとっとと去りました。

「在庫は責任をもって私の家まで返してね」と約束していましたが、当然のようにさっきまでいた席に置き去られていました。こういう人間が子供をロッカーに入れたりするのでしょうか。おそらく友人Aにここまで運ばせることと、こうしてここに置き去りにする事が目的だったのでしょう。こうまでして、

「自分は下僕が払うべき金は払わない。下僕が運ぶべき物は運ばない」

を徹底したのです。ある意味凄い。

私と友人Aは、外に降り出した豪雨を横目に、置き去られた在庫を指差し笑い、中身が無事な事を確認しました。そして今日の友人Aの被害や、これまで自己愛にされた散々な思い出を爆笑しながら語り尽くしました。

二人で予約していた本当の打ち上げ場所の時刻が迫ったので外に出ると、ちょうどゲリラ豪雨が止み、真夏のうだるような暑さが一時和らぎ、先程までが嘘のような快晴になっていました。

すぐそこに見えたコンビニで、取り巻きさんが多く寄越した送料を使って重たい在庫を自宅に発送。これで宙ぶらりんなお金もぴったり無くなりました。

翌朝には自宅で受け取れ、日本の流通は素晴らしいな、としみじみ思いました。


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