第11話 いよいよ終わりを決めた話2

私が管理する在庫に異常な執着を見せる自己愛。取り巻きは何も考えず自己愛の命令に従っているだけです。

当時は解らなかった執着の理由が、後でなんとなく解りました。私達の抱えるそれが無いと、出品する物が何も無かったのです。自分を祀り上げるステージなのに、才能を示す品物が無い。努力して作るのはもう嫌。あいつらの持ってる物を私の手柄として並べよう!となったわけです。当時はその思惑が解らなかったので、なんで?いらなくない?とひたすら返していました。連絡役の取り巻きはハラハラしていたでしょう。

断り続ける度に、取り巻きの「また後で話し合いましょう」のような謎の言葉でこの話題は放置されていきました。

そしていよいよ、今送らなければもう間に合わない、という時期になりました。


当然このまま放っておくつもりだったのですが、以前、自己愛様の「察しろ」に対して何もしなかった事を「みんながやらなくてびっくりしました!だから私が解決したんです!」と吹聴されたことがあります。そんな事をされては胸糞なので、返信がなくてもいいから、最後にこちらから確認したという証拠を残すために、一文送ろうと思いました。


というのは、実は建前でした。

本当は、こいつらに最後に一泡吹かせてやろうと思いました。自己愛からの、「売ってやるんだから当然送料はおまえ持ちで送って来い」

という圧力も感じていました。私から、

「どうしても置きたいんなら、着払いなら送ってあげるよ」

という申し出には返信がありませんでしたから。

それも無視して着払いで送りつけ、私の予告通りほとんど売れないであろうそれを、ケチな自己愛がそのまま元払いで送り返すのを見たいと思ったのです。または送料をケチってギシギシ運ぶのを見たいなあ、と。

自己愛にされた嫌な事を仕返ししていると、このようにどんどん性格が悪くなります。友人Bも言っていましたし、友人Aは実際少しおかしくなりました。私もそれを自覚していたので、この後きっぱり縁を切りました。自己愛以外に嫌な事をしてやりたい相手などいませんが。


「明日にでもなんとかしないと間に合いませんが、もういらないですよね?着払いならお送りしますが」と送信。


以前から「私なら古いやつは無料で配るのに…(みんなはケチなんだね)」と自己愛が何度か言っていたのが気になったので、勝手に無料配布したり、値引きをしたり、売れなかった腹いせに傷をつけたりした場合は全て自己愛の買い取りで、と釘を刺したので、勝手に減らす事も出来ません。在庫数も記録してあります。

当然自己愛はこの在庫を作る際に一銭も出していません。

先回りで釘を刺される意味が解らなかったようで、「あなたの言う事は自己完結していて意味がわかりにくい、と取り巻きが言ってた」と後で言われました。もちろん取り巻きではなく自己愛の感想でしょう。

意味など解らなくていいのです。ただ無駄金を払って、重たい物を無益に運んでくれればいいのです。壊したらまた罰金ね、と。そのくらいのお返しはいいでしょう。


そんな事を考えつつも、どうせ返信は無いんだろうなと思っていました。自己愛の思い通りにならなすぎるので、なかった事にするだろうと。しかし、自己愛は頭を使いました。

取り巻きが、「私が取りに行きます」と連絡を寄越したのです。

なるほど。取り巻きが電車代を使って直接取りに来れば、自己愛の財布も痛まないし、私の思惑通りにもなりません。うまく考えたなあ、とこの時はもう憐れな取り巻きすら笑いの対象でした。


自己愛の駒として使われ始めた取り巻きですが、好きで動いているわけでもないのでスムーズに連絡がつきません。自己愛に操られ続けて決断力も鈍っています。日にちと、日中の気温が落ち着く夕方頃に来るという事を決めさせました。


季節は盛夏で、外に五分も立っていれば汗だくになりそうでした。おとなしく宅配を使えばいいところを、自己愛の自尊心を満たす為に近くもない距離をわざわざやって来る取り巻きを憐れに思い、「お茶くらいは冷やしておくから」と言いました。更に、もう少しまともに会話ができた時期に「余っている素材をあげる」という話をしており、取り巻きも「欲しい」と言っていました。正直取り巻きは、悪い人間ではなかったのですが元々私とは壊滅的に会話が合いませんでした。同じテーマの話をしていても全く噛み合わないので、良い悪いではないですが、長時間顔を合わせるのは私もごめんでした。素材は別な部屋にあり、扉も閉まります。そこで涼みながら欲しいものを選び、お茶でも飲んでから自己愛の重い荷物を引いて帰ってもらえればと、軽い気持ちで提案しました。

すると「忙しいのですぐ帰ります。一瞬顔を見られれば十分です!」という返信があったので、とにかく玄関先で物だけ受け取って即刻立ち去りたいのだなあと解りました。私が話したいと思っていたなら悲しいなあと思うのですが、私の方も出来るだけ顔を合わせずにおきたいと思った上で、ついつい憐れみをかけたらこの結果でしたので、まだまだ自分は甘いと反省しました。

胸糞が悪かったので、夕方頃という広い範囲でグズグズと引き延ばされないよう、敢えて「○時から来客がある」という予定を実際に入れました。この時間までには来るようにと。ここを憶えておいてください。


とは言え大変なのは私ではないし、高みの見物…と思っていたところ、自己愛からの連絡がありました。この頃の自己愛は全ての予定に対し「行けるかどうか解らない」という返事をしていました。当日の自分の気分次第で動くという意味と、もっと良い予定が入ったらそちらに行くという意味です。利用価値のなくなった相手との約束を一番には据えません。こちらももう自己愛はいないものとしていました。そんな自己愛からの連絡を意外に思いつつ見ると、

「私が行けないなら取り巻きさんは夕方頃に一瞬だけ寄る。私が行けるなら昼から行くから、それなら取り巻きさんも昼から行きたいって!」

とありました。

「おまえだけなら用はないけど、私様がいるなら取り巻きちゃんはゆっくりしたいのよ!」と伝えたかったようです。

この文面を見て驚いたのは取り巻きです。こんな事を暴露されてしまっては、どのツラ下げて私の所を訪ねたらいいかわかりません。この頃自己愛はかなりおかしくなっていて、初期ならしなかったであろうこんなミスもしていました。

「○時から来客があるのでゆっくりしてもらう事は出来ないし、そもそも私の家はあなた達の寄合所ではない」

と返信しました。ここから取り巻きは完全に沈黙しました。その後自己愛に「あんな事を言われては困る」と取り巻きが訴えたのかは判りませんが、慌てたように自己愛が、

「取り巻きさんがすぐに帰ると言ったのは、来客があると聞いたから」

と書いてきました。

読んでいる方はお解りの通り、私は取り巻きの「おまえには用はない」という態度に腹を立て、来客の予定を入れました。自己愛の言い訳は、順序が逆になっています。全てが破綻していました。


結局この後、取り巻きから「着払いで私の家に送ってください」と事務連絡がありました。自己愛様から「送料を払うな」と命令されていたと思いますが、自己愛自身のミスでそれがしづらくなったので、許可が下りたのかもしれません。


事の顛末を全て知る友人Aが、この後自己愛取り巻きと話さなければならなくなった際、どうせだからと、

「結局宅配にしたんだね。すごい忙しくて一瞬しか寄れなかった日は結局どうしたの?」

と聞いたところ、自己愛と取り巻きの二人で外で三時間程お茶をしたそうです。

「結構ゆっくりしたんだね」

と言っておいたそうです。普段は人のいい友人Aもさすがに苛立っていました。

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