第10話 いよいよ終わりを決めた話

自己愛と私達は、趣味の物を出品する活動をしていました。元々自己愛は個人でやっていたのですが、出会った頃にはもうブームは落ち着いていたようで、あまり活動はしていませんでした。しかし自己愛にしておくにはもったいない才能があり、私達もそれを本当に尊敬して褒めていました。今なら、その偽りのない賞賛すらも障害を悪化させるものだったと解るのですが…。褒めて悪くなる障害があるなんて、全く知りませんでした。学校で道徳の時間に教えるべきだと思います。


自己愛よりも少し遅れて活動を始めた私達は、当然の流れで、友達になった自己愛を販売の場に誘いました。私達より先に始めて才能があった自己愛さんがいれば、みんな喜ぶよ!という単純な理由からでした。私達は元々、あまりお客さんと長々と絡む事はしない主義でした。自己愛は話しかけ、仲良くなるのを好むタイプでしたので、本人が望む限りは前に出てお客さんと絡んでもらいました。当時はコミュニティ能力が高くてうらやましいね!と言っていたのですが、後にこれも「新たな取り巻きや信者をサーチする行為」だと判りました。相手が自分より実力があったり、社会的地位が上だと判ると、例えどんなにいい人でも自己愛は「あの人は嫌な感じがする」と言ってシャットダウンするのです。自己愛のこの見立てに私達が共感する事はありませんでした。自己愛が欲しいのは、自分を敬い、言うことをよく聞く、歳下や経験の浅いお人好しでした。


出品に必要な費用などは、売り上げで相殺されるように計算していたので、私がまとめて出して売り上げで回収していました。これも後で自己愛に悪く作用します。


初回は、自己愛が来てくれた事をみんな喜んでいました。自己愛も自分から能動的に活動するには至らないまでも、少数のものを作って一緒に販売してくれたりと、自己愛のファンのお客さんにも良い事づくめでした。

二度目は、私が出したテーマが自己愛の方がうまく扱えそうだったため、私から自己愛によかったら使ってと持ちかけました。テーマの発案が私である事を明記してくれ、私も自分がやるよりも自己愛さんに渡して良かったと思いました。自分ではまた別なものを扱いました。


この後あたりから、じわじわと乗っ取りが始まりました。

ちょうどこの頃、第6話で書いたような自己愛の爆発などがありました。私が姫なんだぞ!お前たちは下僕!という態度がかなり露わになってきた時期です。

最初こそ「もう活動していない自分を誘ってくれてありがとう」と謙遜してくれていましたが、「有名人の私が参加してやるよ」になっていました。私達は「もうやる気がないのを無理にやってくれなくてもいいんだよ」と本心から言ったのですが、金を払わず雑用もせず、本番だけ自分が先頭に立って主役としてチヤホヤされる、という体験は自己愛の脳に麻薬のように作用してしまったのです。実際はもう意欲も失せているので何も浮かばない。しかし何かしらの形で物を発表しないと、前に出るきっかけが掴めない。悩んだ自己愛は、私の発言からテーマを掠め取りました。もちろんそこには私の名前は一切出しません。正直、自己愛の才能を持ってすれば、私のありがちなテーマなんかより余程面白いものが出てきます。天は人格者に才能を与えるわけではない、というのを痛感しました。しかしながら、お客さんにテーマそのものを褒められている自己愛はいい気味でした。そのテーマはあなたのものではない。


自己愛はとにかく見えない努力や裏方の仕事を嫌がります。それでも最初の頃は、企みなど無く裏方も手伝ってくれていたと思います。私達がどんどん悪化させてしまったのかと思うと、本当に脳障害への知識が無かったことが悔やまれます。別なやり方をしていれば、違った結果があったのかもしれません。


まず、半端な形で作品を投げてくるようになりました。もう情熱はなく、ただ前に立ちたいがためにやっているところがあるので、誰にでも出来る処理をこちらに丸投げしてきたのです。ギリギリで渡されたので差し戻す時間もなく、結局外部の無関係な人に処理をお願いする羽目になり、手数料も発生しました。それを注意すると根に持たれ、「あの時私怒られたんですけど」と何度も言われましたが誰も庇いません。自己愛の中では雑用は全て周りの下僕がやることであり、自分は大先生なのだから、自分にしか出来ない部分をやればいい、となっていました。

購入していただいた方に差し上げるおまけを用意すると、自分の取り巻きに出来そうだと目をつけた相手にだけ、複数渡そうとします。他の購入者の手前、それはやめるようにと言うと、理解は出来なかったようで、ケチだと文句を言いながらやめました。相手をえこひいきする、賄賂を多く渡す、という形で人を取り込もうとします。

更には一円も支払わない状態で、「私達のお店」と代表者ぶり始めました。他の友人たちは、最初に私に「自分達は出資しなくていいのか」「何も出していないのに自分達のとは言えない、あなたのお店だよ」と全員(後の取り巻きさんも)言ってくれたので、私の方から「面倒でまとめて出しているだけなので、金銭は関係ない。私一人の力では出せないので、全員でチームだと思っている」と言いました。自己愛からだけは、そういった言葉は一度もありませんでした。この時は、友人Aが乗っ取りの空気を先に感じていて、自己愛がお客さんに対し「私達の」と言うたびに、「自己愛さんと一緒だなんてとんでもない!自己愛さんは一人で自分のお店を出してます。別です。ちょっと手伝っていただいてるだけ!」と訂正してくれていました。この件に関しては、私が完全に後手後手になっていました。面目無い。


最終的に、「おまえらみたいのが陰気に座ってたら売れるもんも売れないんだよ。どけ!私と取り巻きちゃんが売る!かわいい私達が座ってる方がいいんだ!」と文字通り椅子を奪われました。私と友人Aは苦笑いしつつその場を離れ、この馬鹿げた自己愛様発表会は今回で終わりだ、と決めました。現場に戻り、私が購入した座席二つに陣取る自己愛と取り巻きに「疲れたから代わって」とストレートに言うと、取り巻きは「ごめん」と言って退きましたが、自己愛は狸寝入りをしていました。こいつはゴミだな、と思いました。

その後の打ち上げ(もはや自己愛と取り巻きの話は誰もろくに聞かず、実質私と友人A友人Bの反省会)で意気揚揚と、「次回もやろう!」と叫ぶ自己愛と「やろう!」と続く取り巻き。苦笑いで濁し、その後、あとに残せる文面で「自己愛さんと取り巻きさん二人で頑張ってね!」と答えました。

胸糞悪くなってしまった会がようやく終わった。元々自己愛一人で十分やれていたんだし、取り巻きという雑用係もいる。次回からは二人だけで楽しくやってくれればいいよね、と思っていました。

しかし自己愛は諦めませんでした。

自分は金も出さず、手も汚さず、ちょっと端っこに参加しただけで、自分が主役のステージが開催される快感が忘れ難かったようです。


「私達はもう参加しないよ」

「あとは自己愛と取り巻きでやってね」

簡潔に、何度も読み返せるよう文面で、私達は返信をしました。

しかし、自己愛と取り巻きに言葉が伝わらないのです。

「費用は三人での分割でいいですよ」

「あなた(私の事)はこれまでよくやってくれたから、希望があれば聞き入れます」

何を言っている?恐怖です。取り巻きまで会話ができなくなっています。

自己愛の中の正解は、「金は下僕が出す。雑用も下僕がする」です。それに反した現実に脳が対応できなかったようです。取り巻きもそんな自己愛の顔色を窺い、同調していますから、一緒に狂ってしまいました。これ以降、自己愛からの直接の返信はほぼ無くなり、自己愛の犬と化した取り巻きとのやり取りになりました。取り巻きは、「あいつらを私の思い通りに動かせ!」という自己愛と「おまえ達の事はもう知らんから関わるな」という私達との中間管理職になってしまったので、「ここで文章で話し合っても仕方ないからまたみんなで会った時に〜」と言葉を濁して消える事が多かったです。もう会う理由もなかったし、虚言や記憶の改竄、消去をされるので、こちらは後に残る文章以外で話す気はありませんでした。自己愛は都合の悪い事には返信をしなくなる。取り巻きは適当に逃げるだけなので、このままフェイドアウトで終了だと思っていました。


しかしまだまだ自己愛節は続きます。

自己愛から、

「あなた達が抱えている在庫を、私達が全部売ってあげる」

と連絡が来ました。断りました。

この在庫というのは、手芸品だけなら軽い物とイメージされますが、それに関する文章や解説をまとめた冊子などもセットになっていて、それを全部となると、段ボールで発送しないときついです。

何よりもう自己愛に関わりたくないし、これまでの売り上げを全て記録していたのですが、季節物などもあり、最近の売り上げは横這いでした。今更わざわざ発送して全部並べたところで、ほとんど売れないはずです。そんな数字も交えて説明しましたが、何故か異常に在庫に執着しました。

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