谷崎純一郎や川端康成の上品なホラーにも似た奇妙に美しく残酷な物語。
古代日本のような世界を舞台にしており、歴史、古典、伝奇が好きな人にもおすすめです。
主人公は紫乃という奴婢の少女。生まれながらに人間扱いされない身分です。
彼女は主人である氷雨を熱烈に愛しています。生活の全てが氷雨を中心にして回っています。
しかし氷雨は絶世の美貌を持つ皇女の艶夜に惹かれてしまうのです。
紫乃の目を通して世界が広がって…いくわけではなくむしろ彼女の狭い日常と
内面に深く潜っていくような構成です。
淡々として抑えた口調、ひたすら同情を誘う境遇。読めば読むほど奇妙に美しい世界観。
引き寄せられるまま、澄んだ水にゆっくり沈んでいくような深い安堵感に包まれます。
(それすらも、作者のしかけた罠だったのかと思わないでもありませんが)
中盤からは駆け上がるように話が進みます。
そして最後に紫乃が直面するもの。嵐のような逆転劇。
その正体を知った時、ぞぞぞぞっと戦慄が走ります。
絶叫系ではありません。
ひたすら沈黙して耐えるしかない静かな静かな恐怖です。
ええ、この恐怖を誰にも話してはいけません。
なぜなら口は災いのもとなのですから………
まずタイトルが素敵ですよね。
おうぜつ、なんだろうと思いました。
調べてみたら うぐいすの声。また、鶯のように美しい声。 だそうです。
また登場人物の名前が素敵なんです。
しの、ひさめ、すいらん、えんや、いざや、やつひろ、いほり。
新幹線や自衛艦の名前の候補になりそうな美しい名前ばかり。
鶯のような声を持つ皇女様は歌を歌います。
その歌も詩的でもの悲しくて素敵です。
虹色の水を持つ水龍の子孫。純和風の華麗なる王朝絵巻。国一番の美貌。かなわぬ恋。ちりばめられた美のテイストにうっとりしていまいます。
でも…この話とっても怖いんです。
美しい日本語が美しい響きで怖さを引き立てています。
何がどう怖いのか、それは読んで確かめてください。