一気読みしてから再度しみじみと読み直し、余韻にひたっていましたが、もっと評価されてほしいと感じたので拙いながらもレビューします。
いろいろ考えたのですが、この作品は、過去の作品にも例えられないとても美しくゾッとするような和風ファンタジーです。
あえていうのであれば神と人が混在している奈良時代、平安時代のような世界観で、名作漫画の「日入処の天子」に近いようなかんじですが、BLではなくあくまでも男女間の異性愛の物語です。
この異性愛というのは、最初は人間同士の愛憎に見えますが、実は…いやいや実は…さらには…とどんどん謎は深まり、主人公が見る摩訶不思議な夢も相まってハラハラドキドキの予想できない展開を続けます。
一見身分違いの悲恋もの(?)のようで、入り組んだ構造をし、登場人物の細かい感情描写やなにげない会話が後から設定の伏線だとわかったりします。(念のため読み返してみましたが、ちゃんと最初の方に書いてあって感心します)
特に「落日の章」に入ると元からあったはずのに、これまで見えなかった線みたいなものが一気に浮かび上がってつながるような、あ~そうだったのか!と膝ポンするような爽快さがありカタルシスも抜群です。
文体は研ぎ澄まされた刃物のように鋭利で、冗長な部分がないので読みやすいです。
また古典的でどこか懐かしい世界観のようで、現代でも通じるテーマを持った作品だと感じます。主人公たち(複数で合っているのか?)は未来的ともいえる存在です。
恋愛観にも「生殖に結びつかない愛のかたちや許容」があるように感じました。人間も動物も植物も本来いきものはみな繁殖するために生まれて生きて死んでいくわけですが、文字や文化や芸術が生まれ、本能を超えて理性をもったときに生殖だけが人の生きる道ではないのだと、そういうテーマがある気がしました。
それは自然や自然界からしたら、不自然であり、悪であって許されないことなのかもしれませんが…。
主人公は本来在るべき姿に回帰したのでしょうか、それとも違う道を進むのでしょうか…私は後者であって欲しいと願います。
淑々として非常に柔らかい文章。ところが、紡がれる物語は凄惨の一言に尽きる。愛と哀の相克。それ以外にも、対立とは行かないまでも、対峙する二相の組合せが幾重にも重なる。
第一部だけでも圧巻のストーリー展開。
ネタバレは野暮なので口を噤むが、「だから、あの様な表現で主人公の心情を丁寧に綴ったのね」と、第一部の終盤に読者は膝を打つだろう。こりゃ凄いや。
主人公の経験するフラッシュバックが重要な謎解きの糸口なのだが、それが第二部に繋がって行く。
その第二部だが、凄惨さと言う点では第一部に比べて相対的には穏健なので、割と冷静に読み進められる。面白くないのではない。例えて言うならば、スターウォーズ。第二幕から始まっての第一幕。誰もが結論を知りつつ、十分に楽しめる。あんな感じである。
レビューで物語の構成を解きほぐしても、読者の興醒めにはならない。それだけコンテンツが圧巻なのです。
唯一残念な事は、二年近くも筆が進んでない事。こんな生殺しは嫌じゃあ!
こんな気持ちになったのは、ふたぎおっと氏の「戦犯の孫」以来です。