鶯舌記と言うより、壮絶記。物凄い迫力。

淑々として非常に柔らかい文章。ところが、紡がれる物語は凄惨の一言に尽きる。愛と哀の相克。それ以外にも、対立とは行かないまでも、対峙する二相の組合せが幾重にも重なる。
第一部だけでも圧巻のストーリー展開。
ネタバレは野暮なので口を噤むが、「だから、あの様な表現で主人公の心情を丁寧に綴ったのね」と、第一部の終盤に読者は膝を打つだろう。こりゃ凄いや。
主人公の経験するフラッシュバックが重要な謎解きの糸口なのだが、それが第二部に繋がって行く。
その第二部だが、凄惨さと言う点では第一部に比べて相対的には穏健なので、割と冷静に読み進められる。面白くないのではない。例えて言うならば、スターウォーズ。第二幕から始まっての第一幕。誰もが結論を知りつつ、十分に楽しめる。あんな感じである。
レビューで物語の構成を解きほぐしても、読者の興醒めにはならない。それだけコンテンツが圧巻なのです。
唯一残念な事は、二年近くも筆が進んでない事。こんな生殺しは嫌じゃあ!
こんな気持ちになったのは、ふたぎおっと氏の「戦犯の孫」以来です。

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