鶯舌記 -おうぜつき-

八島清聡

鶯舌記 本章

プロローグ ―絶唱―




 歌え、歌え、歌え、歌え、歌え、歌え。

 笑え、歌え、舌を切れ。

 笑え、歌え、四肢を断て。

 笑え、歌え、頭を落とせ。

 笑え、歌え、根を絶やせ。

 笑え、歌え、笑いながら殺せ!


 聞け。聞け。聞け。

 声にならぬ悲しみを聞け。

 誰があの方に死をたまわった? 

 お前か。お前だ。お前じゃないか。

 貴様だ。貴様が殺した。憎い貴様。絶対に許せない貴様こそが。

 貴様はなんだ。種か。種から芽吹いたのか。

 つるを伸ばし、葉を生やしたのか。

 つぼみをつけたのか。咲いたのか。歌ったのか。笑ったのか。

 徹頭徹尾てっとうてつび、歌って殺したのか。そのたぐいまれなる鶯舌おうぜつで。

 私はなんだ。私も芽吹いたのか。私も咲いたのか。

 あの方の情けを得んとして、生きるために水を吸ったのか。

 吸わねば枯れてしまうと、必死に、懸命に、浅ましく実を結んだのか。

 ……誰だ。私は誰だ。私は何であるのか。私は何ものなのか。

 貴様か、私か。私こそが下手人だったのか。

 そうだ、貴様を滅ぼして知った。

 貴様でなく、私だった。私は貴様だった。


 私が……殺した! 

 艱難辛苦かんなんしんくの世に生きる意味を、唯一のりどころを。

 からだと命であった、あの方を!


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