この恐怖を誰にも話してはいけない。さもないと――

谷崎純一郎や川端康成の上品なホラーにも似た奇妙に美しく残酷な物語。
古代日本のような世界を舞台にしており、歴史、古典、伝奇が好きな人にもおすすめです。

主人公は紫乃という奴婢の少女。生まれながらに人間扱いされない身分です。
彼女は主人である氷雨を熱烈に愛しています。生活の全てが氷雨を中心にして回っています。
しかし氷雨は絶世の美貌を持つ皇女の艶夜に惹かれてしまうのです。

紫乃の目を通して世界が広がって…いくわけではなくむしろ彼女の狭い日常と
内面に深く潜っていくような構成です。
淡々として抑えた口調、ひたすら同情を誘う境遇。読めば読むほど奇妙に美しい世界観。
引き寄せられるまま、澄んだ水にゆっくり沈んでいくような深い安堵感に包まれます。
(それすらも、作者のしかけた罠だったのかと思わないでもありませんが)

中盤からは駆け上がるように話が進みます。
そして最後に紫乃が直面するもの。嵐のような逆転劇。
その正体を知った時、ぞぞぞぞっと戦慄が走ります。
絶叫系ではありません。
ひたすら沈黙して耐えるしかない静かな静かな恐怖です。

ええ、この恐怖を誰にも話してはいけません。

なぜなら口は災いのもとなのですから………

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