「この物語がこの世界にあることが、嬉しい」

作中に出てくる一文なのですが、あまりに読後の気持ちにぴったりな言葉だったので引用させていただきました。
しみじみ思います、この物語がこの世界にあることが嬉しい。そんな物語に出逢えたことも、本当に嬉しくてたまりません。

はじめは、なんて美しい文章の世界が広がっているんだ!と、文字を味わうことに夢中でした。
文字のすべてが心の栄養になるような読み心地で、出てくる一言一句にいちいち感情を刺激され、日本語の表現ってこんなにも魅力的なものだったんだと感動して、底光りのする美しい筆致に心底惚れ惚れとしました。
そんな感じで文章に酔いしれていたら、次第にストーリーにも飲み込まれ、気付いたらこの物語すべての虜になっていました。

途方もない喪失感を抱えながら、それでも生きていく主人公ゆすらさんと、そんな彼女にそっと寄り添うお料理上手な木崎さん。ふたりの暮らしぶりにそって、物語はゆっくりと進んでいきます。
その雰囲気が、とても好きでした。好きすぎて随所でしつこいくらいに泣きました。
切実で誠実な悲しみの描かれ方と、やわらかでさりげない優しさの描かれ方の対比に、どうしようもなく涙腺が緩むのです。
優しいものに触れたときに出る涙って、浄化作用が凄まじいじゃないですか。そういう類の涙が止まらなかったです。

料理だけじゃなく、優しさのレパートリーもやたらと豊富なのです木崎さん。
その愛を一身に受けるゆすらさんの優しさの受け取り方がまた、とても素敵なのです。拭い去ることのできない喪失感を抱えているからこそ、新たに得るものの尊さをいつでも噛み締めていて、そんなゆすらさんにしか見えないものが丁寧に描き出されてるところがとんでもなく素敵なのです。

愛情ってきっとこういうもの、というひとつの答えをふたりの中に見た思いがしました。
改めて思います。この物語がこの世界にあることが、嬉しい。

どうもごちそうさまでした!!

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