この物語が現実になるまで、あと何分?

物語はシリアのアレッポから始まる。空爆によって大切な弟を失った兄のエルシュカの復讐の誓いから、この現実に即した物語は始まるのだ。

これは現実のテロリズムを描いたフィクションであり、僕たちが明日にでも遭遇するかもしれない9・11後の可能性の一つだ。

IS(イスラム国)のテロの手口や、組織の在り方などを分りやすく解説しながら物語は進み、そのガイド役たる主人公は、闇ブローカーで仲介屋のイザという男性。不法滞在者でもある彼のアウトローな視点で、緊張感のあるシーンが紡がれていく。彼はひょんな頼まれ事から消えた金の行方を追いはじめ――香港、イタリア、ロシアと各地を回る。その先々で出会いやトラブル、そして事件があり、アウトローな彼の心にも変化が現れていく。

最終的な舞台となる航空機の中でのやり取りは、ものすごく現代的で現在的であり、すさまじいリアリティをもって僕たちに迫ってくる。明日、我々の乗る航空機のどれかが、そうなってもおかしくはないと思わせる描写の数々が襲い掛かる。

作者は9・11同時多発テロの際に、唯一目標に達しなかった航空機『ユナイテッド93』の辿らなかった未来を描きたかったと語ったが、それは成功していたと思う。ヒーローもヒロインもいないアウトローによるテロとの戦いを――ぜひとも多くの人に読んでもらいたいと思う。

そして、9.11後の世界の行く末を案じてほしい。

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