増殖するかのようなその一日、異変もまた増殖するかのように

単調な工場労働、契約期間は40年。
とはいえ、自分の複體《クローン》4人との分担になるから、
5で割って8年間の拘束というわけだ。
紀元300年7月7日星期四の「きょう」でちょうど折り返し地点。

ところで、昨日は何年何月何日の星期几だった?

そっくり同じように見えて、わずかに違う複體たち。
まったく違うように見えて、同じ仕組みの役割分担。
輸送帯《コンベア》に載せて運ばれるように読み進めれば、
次第に明かされていく工場の、記憶の、世界の、記述のカラクリ。

『われわれの記憶は偽物だ。日誌を見ろ』

殖えていく。
繰り返される。
継続する。
壊れていく。

読み進める手応えはガッツリあるのに、
このむなしさは何だろう?
キャッチコピーに「ブラック労働SF」とある。
まさにそのとおり、彼はただ働くために働いている。

作中の背景としてちょくちょく登場する漢語《ちゅうごくご》が、
人海戦術な工場労働シーンや理不尽な貧富の格差の描写に
何だかひどく調和しているように感じられた。
というのは、東洋史学研究室で刷り込まれた偏見だろうか。
(カバーした範囲は、時代は文革まででエリアは主に大陸なので、
 繁體字エリアの近現代をわかってないままの無責任発言)

自分では絶対に発想できないし、書けない作品、作風。
そういう世界に引き込まれる読書体験は刺激的で、すごく好きだ。
SFは、当然だと信じている概念や世界観が揺さぶられる。
ロジカルな疑念にぐらぐらしながら、読後感に浸っている。

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