紀元三〇〇年七月七日

作者 維嶋津

待っているはずの明日はどこかで見た昨日

  • ★★★ Excellent!!!

毎日毎日同じような仕事でうんざりという人が共感間違いなしなのがこの作品。

主人公は、自分のクローン四人と人形工場で働く「ぼく」。ベルトコンベアに載って流れてくる不気味な肉塊を処理しながら、ぼんやりと過去に思いを馳せ、あるいは契約終了後の輝かしい未来を夢想して、淡々と労働の日々を送り続ける。契約期間は本来四十年だが四人のクローンと一緒に働いているので期間は1/5の八年。その内の半分も過ぎて、自由になれる日も決して遠くはない。
……だが、あるとき「ぼく」は日常の中にある綻びを見つけてしまい、そして自分が遺したと思しき奇妙なメモを発見する。
「われわれの記憶は偽物だ。」

設定はSFだが、不気味な環境で繰り返される日常から逃げ出そうとして、さらなる迷宮に入り込むというサスペンスホラー的な展開が読者を惹きつける。

常に何者かに監視されながらの労働描写や、ところどころに中国語を採用する言葉のセンスなど、物語の細部に至る雰囲気作りも非常に巧みで、最初は小さかった違和感の正体が読み進むにつれてどんどん明らかになっていき、漠然とした不安が具体的な恐怖へと変わっていく過程、そして終盤で明かされるめくるめく数々の真相は一見の価値ありだ。

(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=柿崎 憲)

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