王道にして静謐な異種婚姻譚
- ★★★ Excellent!!!
代表的な異種婚姻譚を挙げるとすれば、たとえば『鶴の恩返し』がある。
鶴が人に化けて機を織り、助けてくれた青年に恩を返すという筋書きだ。
鶴は有益な怪異としてその影を人前に現す。そして人はその美しさに魅せられるのである。
だが、それでも正体を暴いてはいけない。
見えざるものは観測されることでその能力を失う。
もともと棲む世界が違うのだ。
人は此岸に生き、怪異は彼岸に生きる。
どんなに近づこうとしても決して結ばれる道理はない。
それでも人は人智を超えた存在を求めてしまう。
異種婚姻譚がいつの時代も人を惹きつけてやまないのはきっと、
見えないものへの畏れ、そして憧れがあるからだろう。
本作はこれらの情念が丁寧に描かれています。
ハンカチを用意してから読まれるのが良いでしょう。