物語が現実になる、というとお伽噺の世界の話だと思われるかもしれないが、しかし実は、現実の世界は物語で構成されており、本当の意味での現実を観測している者はほとんどいない。
我々は知らず内に物語のなかで生かされているのだ。
そんなはずはないと思われるなら、例えばお金を見てみるといい。その目に映っているものは何だろう? 1円か? それとも1万円だろうか? 真実は違う。1円だと思っているものは本当はアルミニウムの塊だし、1万円はミツマタという木材からできたたんなる紙切れにすぎない。にもかかわらず別のものと交換することができる。なぜだろう? それはお金には価値が在ると誰かによって教えられ、その価値を信じているからだ。要するに――
大勢が物語を共有しているからだ。
この、フィクションを共有するというアクションこそが物語を現実に置き換える原動力となるのである。
では実際に現実を物語に置き換えているのは誰だろう?
ストーリーテラーだ。
一流のストーリーテラーは物語を現実にする術を熟知している。
まだその頭のなかにしかない夢物語を他人に信じさせる方法を心得ている。
彼らが操っているのは言葉や文字だ。
これこそがフィクションを共有するための最大の武器だと理解している。
時に為政者として、時に詐欺師として、その力をいかんなく発揮している。
そんな大層な人物でなくとも我々一般人でも物語を創ることはあるだろう。
それはちっぽけな夢かもしれない。何気ない嘘かもしれない。
取るに足らない物語かもしれないが、それでも誰かに聞いてほしい。
できるなら共感して、ワタシという、ボクという物語を信じてほしい。
それくらいなら願っても許されるのではないか。
この物語は、まだ未熟な少年少女が作り上げたフィクションである。
だけど信じてあげてほしい。
あなたが信じれば、物語は本物になるのだから。
主人公ケイジと不思議な能力を持つ少女ミルイが繰り広げる、幻想的でミステリアスな物語。穏やかで独創的な透明感のある世界の中、繊細な筆致により運命で結ばれたふたりの青春が切なくも瑞々しく描かれています。
圧倒的な筆力に感服すると共に情景描写も世界観も、そして登場人物たちの心もあらゆる意味で「美しい物語」だと感じました。まさに、この一言に尽きます。
安易な帰結としない余韻を残すエピローグ〜エンディングも良かったです。ご自身の作品に対して真摯な態度で向き合う作者様の強さと決意を感じました。
抜群の読み応えと充実の読書時間をお約束します。素敵な小説との出会いを物語の神様に感謝。
この小説を35文字で??難しいっすよ。なんとか衝撃的な謳い文句を書いてはみたけども、もっと色々言いたい。
まずは描写が凄い。心理描写。情景描写。人物描写。
これを読み易くってのは、とても難しいと思うんです。ごちゃごちゃしちゃうはずなんです。この作品も、描写をたくさん書いてるんです。なのに、
なのに、なんでこんなに華麗で繊細で圧倒的で、読み易いの??卑怯と言わざる得ない。と、まずは読み易いのに驚く。
そして、これは僕の主観だけど、青春でした。。あの頃に戻って、主人公と一緒に拗ねたり、怒ったり、落ち込んだり、友達と距離を感じたり、言葉に出来ない衝動に突き動かされたり。
もう、作者の手の平で転がされる心地良さが半端ない。
この作品の良さを上げればキリがないけれど、これ以上は読んでからのお楽しみ。
ああ、凄く良い読者時間でした。どうもありがとう!!
主人公の少年と、霧絵ミルイという不思議な魅力を持った同級生の少女の物語です。
彼らの関係を表す言葉は難しいです。初め、ミルイは「運命の人」と言いますが、途中で否定しますし、主人公もまた冒頭で否定しています。
けれど、やはり彼らは「運命の人」という関係だったのではないかと、物語を最後まで読んだ私は思います。
将来のことを具体的に決めなければならない、高校3年生の6月。「描いた物語を現実にするチカラ」を持ったミルイは、そのチカラの効果を実験するために主人公を巻き込みます。
そんなファンタジックで一風変わったできごとからスタートするのですが、主人公たちは現実を見つめ、悩み考えていくことになります。
直面しなければならない現実を突きつけられ、自分の力で叶えることが可能なものと、そうでないものの違いに苦しむという、誰もが持つ普遍の悩みと、どうしても抱いてしまう黒く醜い心の描写は圧巻です。
長編ですが、読み終えた時の満足感と達成感は格別です。
読書の秋に、どっしりと構えて読んでみるのはいかがでしょうか。
第26話まで読んでのレビューです。
とても素晴らしい物語です。これは文学でありファンタジーであり、現実と空想のはざまに位置する物語で、子供から大人へと変わっていく瞬間を切り取ったドラマです。
主人公「ケイジ」は学校の屋上で「ミルイ」と運命的な出会いをします。この「ミルイ」かなり不思議な少女で、人を寄せ付けない美少女です。その彼女が目の前で校舎から、何のためらいもなく飛び降りるのです。これが二人の出会い。何事もなく生還した彼女はケイジを運命の人と呼び、ここから二人の不思議な物語が始まります。やがて明らかになっていくミルイの異質さ、それは彼女が物語を現実にするという不思議な能力を持っているせいだと明かされます。
日常生活にスルリと紛れ込むファンタジーの要素、同時にやはり確固として存在している苦い現実の生活、醜い自分の心とそれでも前に進もうとする苦しい戦い、そういった物語が混然一体となって、しかしとても読みやすい文章と構成で、この物語を作り上げていきます。
ミルイが引き込んでくる物語世界が現実世界と触れ合った瞬間の描写、地の文の巧みさ、ところどころに挟まれる風景描写の美しさ、物語の見どころがたくさんあります。もちろんキャラクターの良さもたっぷりで、読者それぞれに思うところが出てくるでしょう。
とにかく独創的な物語ですが、読みやすい作品でもあります。
ぜひ読んでみてください!