幻想的でありながら、人の心をリアルに描いた力作

 主人公の少年と、霧絵ミルイという不思議な魅力を持った同級生の少女の物語です。
 彼らの関係を表す言葉は難しいです。初め、ミルイは「運命の人」と言いますが、途中で否定しますし、主人公もまた冒頭で否定しています。
 けれど、やはり彼らは「運命の人」という関係だったのではないかと、物語を最後まで読んだ私は思います。

 将来のことを具体的に決めなければならない、高校3年生の6月。「描いた物語を現実にするチカラ」を持ったミルイは、そのチカラの効果を実験するために主人公を巻き込みます。
 そんなファンタジックで一風変わったできごとからスタートするのですが、主人公たちは現実を見つめ、悩み考えていくことになります。
 直面しなければならない現実を突きつけられ、自分の力で叶えることが可能なものと、そうでないものの違いに苦しむという、誰もが持つ普遍の悩みと、どうしても抱いてしまう黒く醜い心の描写は圧巻です。

 長編ですが、読み終えた時の満足感と達成感は格別です。
 読書の秋に、どっしりと構えて読んでみるのはいかがでしょうか。

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