記録は自走する

青い空と強い日差し、目の前に広がるのは一面の砂。
人の息吹はどこにも無い。
けれど、そこはかつての東京だという。
その証拠に、砂漠は思い出したようにかつての構造物を象る。
ビルや家、橋や公園、そして天空樹。
そんな茫洋たる砂漠を行く調査隊の話。

乾いた簡素な文章と謎めいた砂塵の構造物が、ミステリアスに物語を彩る。
けれど、この物語が伝えたいのは世界観やトリックではないはず。

砂漠を行く調査隊の前で都市は虚ろに再生される。
既に人が絶えた今、その構造物に意味はない。
ただ記録だけが自走しかつての街を描き出すのみ。
主人公たちは、そんな虚ろな記録をひたすらに調査する。

その虚ろさは街だけが持つものではない。
主人公もまた同じ虚ろさを抱える。
ただルーチンに従い言葉をやり取りするだけの彼は、しかしいつしか「自分」を見出す。
そして貧しい語彙で必死に記号を彩る。
例え、何も残せないとわかっていても。

都市と調査隊の虚ろな記録は、やがて静かに終わる。
淡々と再生と崩壊を繰り返す記録――記号――と同じように。

結局そこに意味など無いのだ。
ただ残された記号が自己組織化しているだけ。

けれど、その虚ろなビジョンは読者の心に何かを残す。
機械的な記録の想起に過ぎずとも、そこにはやはり何かの意味があるのだ。

そう感じた。

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