美しいものは破壊したいよね!

 これは童話だろうか。それとも一般向けのファンタジー小説だろうか。
 どちらとも言い難い。
 童話であれば、こういった露骨な残虐性などは頻繁に見受けられるが、加えて何かの教訓があるのも常である。だが、この小説に果たして教訓があろうか。
 ファンタジーであれば、勇者次第で血は流せる。だが、この小説の勇者は果たして勇者であろうか。

 ところで、美しいものを破壊したいという気持ちは、万人はあらねど、ある人にはある。可愛い彼女の顔を思い切りぶん殴ってみたり、美しい風景がをズタズタに引き破ったりしてみたいと思うことは、そこそこあることだ。
 だからこれは、ある意味ではファンタジーではなく大衆文学とも言えるだろう。

 では勇者はキリトリセンを持つものや、それによって切り刻んだもののどこに惹かれたのだろう。モンスターや少女の玉肌が持つ美しさとは何だろう。残念なことにそれは明かされなかった。できることなら、その美しさのより精緻な描写が見たいものだった。
 それから、刻まれた後の、滑る血や黒ずんだ皮膚や腕の断面やちぎれた大腸や濁った眼球なんかが形作る美しいオブジェについての描写も見たかった。

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