硝子細工のような繊細な哀しさ、硝子細工を作る時に使う高温のような情熱を感じました。しかしながら、信じるものは本人にしか分からない。そう思ってしまうのは、この物語が、A子が、ミナが、C男が、彼が、先生が、確かに生きている証拠なのです。そんな物語に出会えたことに、心から感謝です。ありがとうございます。
私は、未だに恋をしたことがない。きっと、恋を知らずに終わるでしょう。そう始まった、高校生の少女の告白の行方は――。目次を見てわかるとおり、A子、ミナ、C男、医師の視点で語られていく物語。A子の言葉は、まるで美しい詩のようです。しかしその内容は、とある重大な出来事へと向かっていく。彼女が恋を知ったら、A子を取り巻く世界は、変わったかもしれません。けれども、少年に対してあのような反応をする人はそんなに減らないだろうと考えると、彼を取り巻く世界は、変わらないかもしれない。そう思うと、ものすごく、やるせない物語です。
この小説は、それぞれの独白によって作られている。その独白は静かに語られているようでいて、実に熱のこもる荒々しさを持っていた。狭い世界しか知らないからだ、とワケ知り顔の大人は言うのかもしれない。けれど、説明に窮するほとに繊細な感情の中にいる子たちを、少なくとも私は責められない。
もっと見る