ghost triangle

櫛木 亮

第1話 家族構成。プラス野獣一匹。

 冗談のように始まった、ひと夏の不思議な出来事。

 



 これは、人に気軽に語れる話なんだろうか? まあ、いいか。話すぞ。

 


 俺は高校教師だ。

 そして、今は夏休み。

 キャッホーイ! と、言いたいところだが皆が思うほど、教師は楽な仕事ではない。

 

 3LDKの無駄に広い部屋には、野獣(犬)、一匹。スポーツ少年ひとり。冴えないおっさんサラリーマンひとり。女子高生ひとり。それで俺。とでも、言っておこうか。

 


 ただ、これは表向きではない。


 本来は四十二歳のおっさんと、妻の忘れ形見の息子。プラス、オスのウェルシュ・コーギー・ペングローブが一匹だ。

 

 朝早くから弁当をこさえ、息子を起こす。そして、朝練に行く姿を見届ける。次に洗濯機を廻す。ぐるぐると健気に洗濯機は廻る。それはそれは、もう楽しげなリズムを軽快に鳴らして。

 タオル類で一度、黒い色系で一度、泥だらけの息子のジャージ類に一度、そして白い色系に一度。洗濯機には、はじめに洗剤と漂白剤を洗濯物の重さによって計り入れ、最後に柔軟剤を入れる。どうしても取れない汚れは一度、手でこすり洗いをすれば綺麗になる。それを洗濯機に再び入れ、廻す。

 これは、妻が残した『ノート』にある絶対項目だ。まあ、なんというか男の俺には面倒臭ぇ。


 

 満天の夜空を大輪の華が彩る。

 星に負けない程にそれは、美しく咲く。


 屋台の食べ物を美味そうに頬張る、あいつの幸せそうな横顔を俺は一生忘れる事が出来ないだろう。

 

 大きな大きな幸せな未来は、いとも簡単に崩れ去った。マンションの下で息子の帰りを待つ妻は低俗な輩の車に跳ねられ、いとも簡単にこの世を去った。その時、息子は幼稚園の帰りのバスの中、その日が誕生日の母親に紙粘土で作った金メダルをプレゼントする為に、ご丁寧に手製のリボンまで付け、それは嬉しそうに陽気にバースデーソングを唄っていたそうだ。

 

 

 人は簡単に死ぬ。

 

 さっきまでリビングのソファーで座る俺の隣で、笑っていたのに。俺が代わりに迎えに行っていたら、状況は変わっていただろうか? あの時、俺が一緒に行っていれば…… そう、いつも考えていた。きっとアイツは、俺がそんなふうに言ったら、顔を真っ赤にして怒るんだろうな。


 なあ? ユウ、そうなんだろ?




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