世界一の名探偵、シャーロック・ホームズ。世界中で屈指の人気キャラクターだけに原作者であるコナン・ドイル以外の作家による様々なパスティーシュやパロディも書かれており、時には怪盗アルセーヌ・ルパンや夏目漱石といった同時代の人物と共演することも。
そしてそのホームズが本作で共演する相手は、中国拳法八極拳の達人・李書文! 言われて見れば、この二人歴史上で活躍する時期がだいぶ重なっているのである。
古典ミステリーの禁止事項とされるものをまとめた、ノックスの十戒の一つに「中国人を登場させてはならない」がある。これは当時のヨーロッパで「中国人は不可思議な技を使う」存在と見なされており、ミステリーに登場させるとアンフェアになってしまうからという理由によるもの。実際本作でも二人の中国人が殺された現場では、明らかに通常ではありえない不自然な状況が出来上がっている。
しかし、天下のホームズによればそんな不自然な状況の真実も一目瞭然。そしてホームズとワトソンは事件に隠された陰謀を追って清国へ向かう旅に出る!
ホームズシリーズのミステリー部分だけではなく、冒険小説としての側面も大きくクローズアップされた本作品。ユーラシア大陸を横断するシベリア鉄道、混迷する当時の国家情勢や、清国で暗躍する秘密組織、実在の科学者による凶悪な発明、そして神槍・李書文! これらの様々な要素が一つの作品の中で見事に結実し極上のエンターテインメントに仕上がっている。
(「拳で全てを乗り越える!」4選/文=柿崎 憲)
Fantastic!
原典の味わいそのものの推理小説が武侠小説に切り替わったかと思えば刃牙になり、最後はロバート・ダウニーjrの映画ホームズのアクション!
創作かく在るべしと声を大にして万人にお勧め出来る作品です。
まずホームズがアジアに関わるという発想が私の狭い識見になく清冽な斬新さを覚えました。
その上で交流発電、ホチキス機関銃、毒ガスなどがまさに最新技術として立ち現れてくる時代感。
天才という共通点で繋がるホームズと李書文の交感。
トドメに神槍八極拳。
文章は過不足なくキレがあり読んでいて非常に心地よいものでした。
結構な分量ながら一気に読んでも疲れなく上膳水の如しとはこのことでしょう。
この作品に出会えて良かった。
作者様には深くお礼を申し上げます。
凄い……という言葉しか浮かばなかった。
ホームズはホームズだし、ワトソンはワトソン。
これだけでも凄い。
アーサー・コナン・ドイル作品以外にも、ホームズの登場する作品は多々ある。
だが、いつも感じるのは「ああ、この人のホームズだなあ」ということだ。(必ずしもそれが悪いことではないと思っている)
この作品では、まったくそう感じなかったのだ。
「ああ、ホームズだ」と、納得してしまった。
(僕は決してシャーロキアンではないので、どこがどうとは語れない)
格闘については、ここで語らない。
格闘シーンは大好きだ。
そして何より、八極拳とボクシングが好きだ。
長くなるし、ネタバレしかねないw
文句なし!
お見事!
どうしても格闘や推理に目が行ってしまうのだが、語り口、リズム、時代の空気感、国際情勢など、上げればキリがない凄さがある。
どれだけ調べ、練り上げたことか。
正に功夫。
その踏込と一撃の破壊力たるや。
恐れ入りました。
m(__)m
ワトソンさんの手記を基にした今作品は、果たして邂逅し得たであろう2人の梟雄(と言ってもいいだろうか)を翻案を交えることでそのキャラクター性をこれでもかと増し増しで伝えてくる力強さに満ちている。
推理、バリツ、あの口調! 求道心、義侠心、八極拳! そしてそれを熱くも冷静に見守るワトソン。
そんな彼を取り巻く環境もまた燃えるシチュエーション。最新の大量殺傷兵器にまつわる陰謀を知恵と拳で切り開くエンターテイメントは、本当に中短編かと思うほどに濃密。
主人公ふたりが邂逅しその力を『認め合う』シーンは圧巻。
そんな気持ちの良い男たちの話を、皆様もどうか楽しんでいただければ幸いです。シャーロックホームズという作品名に縛られず、面白さの術理を会得した作者の渾身の一撃を堪能してください。
面白かった!
この作品は、シャーロック・ホームズである。
いや、彼を扱った作品はあまたあるし、それをモチーフにしたものは星の数ほど存在するだろう。
だが、この物語は、間違いなくワストン君の手記なのだ。
つまり、何が言いたいのかといえば。
もうまるっきり、ホームズなのである。
端々の言い回しから、物語の展開、そして癖のある登場人物たちまで、まったくもって原作そのとおりだということだ。
誰しも幼い日、学校の図書室でかの名著を手に取ったことがあるだろう。
その世界が、過不足なく、完璧に再現されている。
あのワクワクが、胸躍る感覚が、ここには明確に息づいているのだ。
ぜひあなたも、このホームズの物語を読んで頂きたい。
きっと懐かしさに滂沱の涙を流すことになるだろう。
……ああ、言い忘れていることがあった。
この物語には、ホームズのほかにもうひとり、天才が登場する。
その武術の冴え、きっと目に焼き付けていただきたい。
これは、シャーロキアンならきっと誰もが夢見る物語だ。
ホームズとワトソン博士が謎の女性から依頼を受け、シベリア鉄道に乗って清国へと渡る。
このあらすじだけでもそそられるが、これは仮想の名探偵であったはずのホームズに史実の人物達が干渉してくるという最高に魅力的な物語だ。
毒ガス兵器の開発者フリッツ・ハーバー、紅灯照の首領である林黒児。
そして李氏八極拳の開祖――李書文。
磨き抜かれた武の鋭さ、凄まじさは、作者の卓越した筆致によって余すことなく読者に伝わってくる。
バリツの使い手であるホームズとの戦いだけでなく、二人の言葉少なでありつつも確かな交流も必見。
ホームズの皮肉を交えつつもチャーミングな語り口調も、翻弄されつつも親友のために勇気を見せるワトソン博士の姿もそのまま。極めて優れたパスティーシュとして成立しているだけでなく、盛り込まれた独自の要素もしっかりと活きている。
これは確かに、歴史に刻まれたシャーロック・ホームズの物語だ。
1897年の清国。名探偵は、確かにそこにいた。
なんて面白い!
私はホームズをほとんど知りませんし、李書文という人物についても本作を読んで初めて知りました。
しかし、知識などなくても十分に面白い。
しっかりと練られたプロット、巧みな文章、それに魅力溢れるキャラクター(
(ホームズについて言えば、ほとんどらない私ですら、こいつがホームズだ!と感じる程、素敵なホームズでした)
時代背景はしっかり下調べがされており、随所にリアリティがあふれているため八極拳という要素が加わっても荒唐無稽に陥らない。高い構成力、文章力に裏打ちされた作品に思えます。
どういう展開になるんだろう? どういう終わり方をするんだろう? というミステリの楽しみ方にアクションの派手さも加わった、とても面白いエンターテイメント作品です。