独特の文体で綴られる、祖父への想いと人生を貫く主軸への渇望

 祖父の危篤を知った大学生が故郷に帰り、その死を見届け、遺言に従い一つの行動を起こすという本作の粗筋は、他人の目を強烈に惹くほど奇異なものではありません。また主人公の大学生は少々内向気味ではあるものの俗世に馴染めないほどではなく、祖父に促されて起こした行動も格別おかしなものというわけではありません。しかしこの作品には一つ、これを記すためにレビューを残そうと思い至るほど、僕が今までカクヨムで読んできたものとは一線を画する大きな特徴が存在します。

 文体です。

 硬いけれど滑らか。角ばっているけれどゴツゴツはしていない。僕が純文学や海外文学をあまり読まないからかもしれませんが、こういう鋼鉄で出来た立方体のような文章を読むのは初めてでした。台詞にもかなり特徴があり、例として、石畳で転んだ主人公に父親がかけた何気ない一言を紹介します。

「おい、危ないぞ。擦り傷程度ならば大丈夫に決まっているが」

 この不思議で面白い言い回しはセンスとしか言いようがないでしょう。そして独特でありながら逸脱しているわけではなく、筆力は真っ当に高いです。こういう書き手に出会えるのは希有であり、大変興味深く読ませて頂きました。

 文体の妙にばかり触れてしまいましたが、祖父を想いながら人生を貫く主軸を渇望する青年の物語は、練度の高い文学小説として十二分に楽しめます。是非、ご一読ください。