第8話 終章 狂戦士

「さあ帰るのよ」

「いや、はなしてナガ!」

サクヤの腕をつかみ、ハッチの中に引きずり込もうとするナガ。

「逆らってもムダ、わたしは出力も戦闘用に調整されているのよ」


「ひーっ!」

 叫んで飛び出してきたコポラがナガにぶつかった。

「あっ!」

はずみサクヤをとり逃がしてしまう。


コポラを追ってハッチから、ガロウが飛び出してきた。すぐに追いついて小さな尻に咬みつく。

「狼め、いつのまに」

 ナガは歯噛みしたがコポラを助けるそぶりもみせなかった。



 原人ホロの両手、五指から火花が青白くスパークした。

 仮面の襲撃者たちを一瞬で卒倒させた電撃だ。

オニヒコの首をつかんで吊り上げる。オニヒコが激痛とショックに痙攣した。



「やめてーっ」

 ホロの腕にしがみつくサクヤ。

 ひときわ強烈な火花が散りサクヤがはじきとばされた。

「ウゴーッ!」

 オニヒコの怒りの両足蹴りがホロの胸板に炸裂しなんとかふりほどく。


 

「サクヤが壊れたらどうする!」

 ハッケが怒る。

「とっとと羅刹を始末しろ!」

 そこまで叫んだときハッケの胸から血刀が、にょっきりと生えた。

「蝉脱の法……さっきのは脱け殻さ」

 フブキが肩ごしに冷たく囁いた。


「オニヒコ様」

 フブキが手印を切る。

「強敵です封印を解きます」


 オニヒコの角が青黒く変色し膨れあがるように伸びた。筋肉もゴツゴツと盛りあがる。

 変色は顔から全身にひろがっていた。

 なにより変わったのは顔つきだ。牙が生え、醜く崩れていた肉が収縮し精悍な顔立ちへと変貌をとげていた。

「ゴォーッ!」

 つかみかかるホロの腕を電撃をものともせず接合部から引きちぎる。


「おのれ!」

 ナガがオニヒコに銃口をむけた。

 引き金に力をこめる寸前、頬に衝撃がはしった。

 サクヤが飛礫つぶてを投げつけたのだ。


「相手が同じ造り物なら、わたしだって!」

 次の石を拾おうとしたサクヤを見るナガの目は冷たく、標的を見るそれだった。


 銃声がとどろいた。 




「うおおーっ!」

 ホロがオニヒコに体当たりした。全身がスパークしている。


 そのホロの体が縦真っ二つに割れた。

 オニヒコがついに腰の大剣を振るったのだ。


「ナガ……ひきあげだ」

 ハッケはナガに命じた。ナガはハッケを支えてハッチに飛びこむ。


 飛行戦車が浮揚する。

「やつらの始末は?」

「サクヤと狂戦士は貴重品だ……あとで回収する。あの……銀髪だけ殺せ」

 ナガの問いに、苦痛をこらえてハッケはそう応じた。

「かしこまりました」

 ナガは舌なめずりした。


 地上では迫る飛行戦車に、フブキが青ざめて背を向ける。

「どうしておれだけ!?」


 ところが砲身にはいつの間にか石がつめてあった。

 暴発する砲塔。


 内部に爆発がおよび、ハッケとナガが炎にのまれる。

 コントロールを失った飛行戦車は岩壁に激突し、岩肌を削りながら転げ落ちて四散した。


「ざまーみろ……」

 仰向けに倒れている血まみれのツグミ。右手に石をにぎりしめたまま気を失ってしまう。





 山頂にほど近い氷河のほとりに夕霞がかかっている。


「オ・ニ・ヒコさま……」

 サクヤは呼びかけてかすかな笑みを浮かべた。

「し・ばし……眠りま……す」

 オニヒコは黙ってうなずき、サクヤの胸にうがたれた穴にそっと手をおいた。

 サクヤは再び封印された角をなでた。


 まぶたを閉じたサクヤからは、あの燐光のような輝きも消えてしまった。

 

(また、来る)

 氷の中で眠りについたサクヤに別れを告げて、オニヒコは夕闇のなかへときびすをかえした。



 夜明けごろ、ふもとで待っていたフブキと合流したオニヒコは、まだ気を失っているツグミを蹴飛ばした。

「んん……」

 うめいてツグミが身じろぎした。

 目を覚まさないとわかると担ぎあげてしまう。


「オニヒコ様、これからどこへ?」

(フジ・ヌブリ国)

 フブキの表情が強張った。

(サクヤを治す)

「しょ、正気ですか、殺されますよ!」

 おもわず大声を出す。

(取引きする)

 禁断の書が胸元からのぞいている。


 ツグミがようやく気がついた。

「はっ、オニヒコ!やめろ、おろせっ!」

 背中で暴れはじめる。


「やれやれ……」

 疲れ果てたようにフブキは頭をかかえた。そして振り返り、

「いつまでついてくる気だ!コロポックルの里はこっちじゃねーぞ」

 おどおどと、隠れるようについてくるコポラに怒鳴った。


 オニヒコの艱難辛苦の旅は、まだ始まったばかりである。

 奇妙な一行は先の見えない細道をたどる。

          終わり

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オニヒコ 伊勢志摩 @ionesco

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